シリーズ商品の成分表示には「May Contain制度」があります。
初めての化粧品OEMを検討されている方には聞き馴染みのない制度かもしれません。 しかし、この制度はラベリング作業に関わるコストやミスの削減に大いに役立ちますので、正しく理解して上手に活用したいものです。
この記事では、May Contain制度を含むラベル表示と注意点について解説します。
薬機法で定められている化粧品の全成分表示とは
化粧品の全成分表示は、以下のように定められています。
- 成分名は日本語で、日本化粧品工業連合会作成の「化粧品の成分表示名称リスト」などを利用して、消費者が混乱しない名前で表示する
- 成分名の記載順序は、製品における分量(配合量)の多い順に記載すること。1%以下の成分及び着色剤については互いに順不同でよい
- 配合されている成分に付随する成分(不純物を含む)で製品中にはその効果が発揮されるより少ない量しか含まれないもの(いわゆるキャリーオーバー成分)については、表示の必要はない
- 混合原料(いわゆるプレミックス)については、混合されている成分毎に記載する
- 抽出物は、抽出された物質と抽出溶媒又は希釈溶媒を分けて記載すること。ただし、最終製品に溶媒等が残存しない場合はこの限りでない
- 香料を着香剤として使用する場合の成分名は、「香料」と記載して差し支えない
平成一三年三月六日/医薬審発第一六三号/医薬監麻発二二〇号/各都道府県衛生主管部(局)長あて厚生労働省医薬局審査管理課長・厚生労働省医薬局監視指導・麻薬対策課長通知より抜粋
表示しなくてよい成分
化粧品の全成分表示の対象から除外される成分は2種類あります。
企業秘密成分(非表示成分)
企業が秘密にしたいと思う成分は厚労省の許可を受ければ成分表示中、「その他」として記載できることになっています。 しかし、実際に厚労省は承認申請を基本的に認めない方針のようです。 また、全成分表示が導入されて 20 年以上経つ米国でも、米国食品医薬品局(FDA)が認可したのはわずか十数件と言われていることから、表示しなくてもよい成分は基本的にないと考えたほうがよさそうです。
キャリーオーバー成分
配合成分に付随する成分(不純物を含む)や、エキスを抽出する際に使用されたり、原料を安定させる目的で配合されている極少量しか含まれていない成分のことを言い、表示の必要はありません。 ちなみに、近年ではキャリーオーバー成分によるアレルギーなども知られ、気にする消費者が増えてきており、規制が厳しくなりつつあります。 表示はしなくても問い合わせには応じられるように、キャリーオーバー成分についてもデータを取得しておくといった対策をしておくべきです。
記載する対象の化粧品
商品はもちろんですが、サンプルにも記載は必要です。 店頭に置くテスターは対面での説明が可能なので、テスター容器への記載は必須ではありません。 しかし、消費者がテスターに対して説明を求めた際、すぐにその場で全成分表示が確認できるよう、表示ラベルやテスターではない商品をおいておく必要があります。
薬機法で言及されるMay Contain制度
May Contain(含まれているかもしれない)制度は、化粧品の全成分表示に関する制度です。
シリーズ化粧品のための制度
化粧品には、成分の中で色や香りに関わる成分(着色剤など)のみに違いがあり、販売名も同じで性状も同じ口紅やファンデーションといったメイクアップ化粧品、石けんやオーデコロンなどの製品バリエーションがある「シリーズ商品」があります。
着色剤に該当する成分は、その製品にその成分が配合されているか否かに関らず、[+/-]と記載した後にそのシリーズに配合されている全ての着色剤を表示することが認められています。
数多く色違いバリエーションのあるシリーズ化粧品の場合に、それぞれに独立した全成分表示をするのではなく共通のものを一括で使用することで、表示にかかる作業の効率化やミスの防止を目的として利用される制度です。
実際の記載例
4種類の色調があるファンデーションのシリーズ商品を例に説明します。 個別に表示すると以下のようになり、マイカ以降の成分は着色剤になります。 着色剤のうち、黄酸化鉄と黄色4号が製品により配合されていたりいなかったりすることが分かります。
- 製品A:タルク,カオリン,ナイロン末,ステアリン酸亜鉛,香料,マイカ,酸化チタン,黄酸化鉄,ベンガラ
- 製品B:タルク,カオリン,ナイロン末,ステアリン酸亜鉛,香料,マイカ,酸化チタン,黄酸化鉄,ベンガラ
- 製品C:タルク,カオリン,ナイロン末,ステアリン酸亜鉛,香料,マイカ,酸化チタン,ベンガラ,黄色4号
- 製品D:タルク,カオリン,ナイロン末,ステアリン酸亜鉛,香料,マイカ,酸化チタン,ベンガラ
これをまとめてシリーズ共通の表示にすると
タルク,カオリン,ナイロン末,ステアリン酸亜鉛,香料 [+/-]マイカ,酸化チタン,黄酸化鉄,ベンガラ,黄色4号
となります。マイカ以降の着色剤がまとめられており、製品A~Dに共通して使用できる表示方法になります。
May Contain制度のメリット
この制度を活用すれば、シリーズ商品のラベル表示作業が楽になります。 色調違いのバリエーションが何十種類あった場合でも、他のベース成分の配合が同じなら1種類のラベルで済ませることができるからです。
ラベルの貼付ミスを防ぐことができる
ラベルの成分表示の文字は細かく、記載されている成分量も多いです。 その中で一部だけが違うといっても「どこが違うの?」となってしまうことがあります。
例えばシリーズ化粧品で製品Aには赤の着色剤が使われているけれど、同じシリーズの製品Bは黄色の着色剤になっている場合があります。他の成分がすべて同じなら、よく注意しないとラベルを見分けることができません。 仮に、製品Aに製品B用のラベルを貼って出荷してしまった場合、表示に欠陥がる製品として回収の責任が生じます。
このような製造時のミスを防ぐことは、この制度の最大のメリットです。
資材の調達が楽になる
OEMは小ロット生産が主流です。 小ロット商品の資材を更に細かく仕様別にすると、コストが高くなってしまったり、最低数量に届かなかったりします。 また、何種類もある1つ1つのラベルの版の確認など、発注・納品・検査作業も大変な時間と労力がかかります。 しかし、シリーズ全てに同じ資材でよければ、発注も1種類で済むことになり、時間とコストの節約になります。
May Contain制度のデメリットや注意点
化粧品の製造販売で活用したいMay Contain制度ですが、デメリットや注意点がないわけではありません。
すべての着色剤を表示しなければならない
そのシリーズで1製品だけに使われている成分であっても必ず表示しなければなりません。 抜けがないようにシリーズ全製品の成分のピックアップをして、ラベルの版に落とし込む作業とチェック作業は思いのほか大変です。 成分表示に抜けがあった場合は、ラベル表示ミスとして回収の対象になりますので、十分に注意しましょう。
消費者からの問い合わせの対応
特定の色番号に対して、配合有無を確実に知りたい消費者からの問い合わせがあると、個別に対応しなければならないことがあります。 個別対応を避ける方法として、販売サイトの商品ページではMay Containとせず、色調毎にそれぞれ異なる全成分表示を実施しているケースが一般的です。
まとめ
May Contain制度は、適切に活用すれば、その分だけラベル表示にかかわる時間やコストを抑えることができる優れた制度です。
この記事を参考にして、制度を有効活用してください。