化粧品ビジネスをしていれば、どんなに注意していてもクレームや不良品が起こることがあります。
「外装が破れている」「期待していた商品と違う」といった苦情については、きちんと商品の特徴について説明をしたり、正常品と交換したりすることで解決することが多いです。
しかし、「異臭がする」「肌が荒れた」といったクレームについては、相応の対応をしなければ訴訟に拡大する事態になりかねません。
この記事では、クレーム対応と製品の回収について解説します。
化粧品のクレーム対応 Case1 異臭がする
クレームの中でも重大な問題に発展しがちなのが、「異臭がする」というクレームです。
原因究明のための聞き取り
この場合、まず異臭の原因を突き止めることから始めていかなければなりません。 製品の異臭に関する具体的なクレーム内容を聞き取り調査します。 例えば
- どういった異臭なのか
- いつ頃から異臭がするのか
- 商品に変色等も見られるか
など、詳しい状況を確認したうえで、原因の特定へと移っていきます。
クレーム品の調査・微生物検査
異臭の場合、最も重要な調査が微生物の分析試験の実施とその評価です。 クレーム品がまだユーザーの手元に残っていれば、送付してもらって調査しましょう。 菌が大量に検出されれば、次にその菌がどういう種類の菌かを特定(同定)します。 まったく菌検出がされなければ、異臭の原因を他に探すことになります。
回収の判断
異臭の原因が菌の混入による腐敗であったり、アルコールの混入や、洗浄不足による前製品のキャリーオーバー成分だったりといった特定ができたら、その調査結果に基づいて回収の判断をします。
化粧品のクレーム対応 Case2 肌が荒れた
化粧品を使用したことによる肌荒れも多いクレームです。
肌荒れだけでは製品の瑕疵とはいえない
化粧品で肌荒れを起こしても、必ずしも販売業者の責任にはなりません。 アレルギー反応について適正な表示がされていなかったり、多数の消費者に同様の症状が生じるなど根本的に製品としての安全性を欠いていたりする場合は、販売事業者に法的な責任が問われます。 肌荒れクレームについての具体的な対応は以下のような流れになります。
因果関係の確認
消費者の肌荒れ」と「化粧品の使用」との因果関係を正しく判断するために、ユーザーに聞き取り調査をします。
確認事項は6項目になります。
- 部位:化粧品を使用した部位と肌荒れの部位が一致しているか
- 時期:化粧品を使用した時期と肌荒れが発生した時期が近接しているか
- 使用前の症状の有無:消費者が化粧品の使用の前に、肌トラブルをかかえていなかったか
- 使用中止後の症状:化粧品の使用を中止したことで肌荒れが改善したか
- 別の原因の有無:消費者が別の化粧品を使用しており、その化粧品が原因で肌荒れが生じた可能性がないか
- パッチテスト結果:化粧品のパッチテストの結果が陽性であったか、陰性であったか
化粧品の容器や添付文書に「適正な表示」がされていたか
化粧品のラベルや添付文書に肌荒れに関する注意喚起が記載されていたか確認します。
- 「化粧品の使用時の注意事項の表示自主基準」に沿った表示 定められた注意事項が記載されているか確認します。 (例)
- お肌に異常が生じていないか、よく注意してご使用ください
- お肌に合わないときはご使用をおやめください
- 化粧品の安全性を特に強調するような表示 敏感肌用、アレルギーテスト済みなど、安全性を強調した化粧品については、「アレルギー体質の方、皮膚の弱い方はご使用の前に上腕部内側などに塗布して、必ず使用テストを行ってください。」などの注意書きをしておくことが必要です。
- 法律上の成分表示義務を果たしているか 法律に基づく成分表示義務を果たしていることが必要です。正しい成分表示がされている場合、消費者に対して化粧品を使用することによるアレルギー反応のリスクについての警告は十分になされていたと判断することができます。
過去に同種のクレーム、苦情がなかったか
適切な表示がなされ、アレルギー反応が起こるリスクが外箱や添付文書で説明されていたとしても、その化粧品を使用した多数の消費者に同様の症状が生じている場合は、化粧品販売業者の法的責任が認められます。 過去に同様のクレームがなかったか確認し、今後も同様のクレームが出る恐れがある場合は、回収も含めて対応を検討します。 また、販売前に自社の化粧品に含まれる成分で、過去に多数のクレームが起こっていないか、他社製品を含めて情報収集し、事前にクレームを防ぐ努力も必要です。
参考:化粧品、エステ・美容業界向け!消費者の肌荒れクレームに対する正しい対応方法
化粧品の回収対応の方法
実際に回収を行う際の手順は次のとおりです。3・4・5は並行して行うようにしてください。
1. 情報収集
製品の欠陥に関する正確な情報を入手し、次の判断の材料とします。なるべく多くの情報を収集して、判断材料をそろえましょう。
2. 回収の必要性の判断
回収の判断基準は4つあります。
A. 有効性及び安全性の観点からの判断 製造販売した医薬品・医薬部外品・化粧品・再生医療等製品の不良に関して有効性及び安全性に問題がないと明確に説明できない場合には回収の対象となります。
B. 医薬品医療機器等法違反又は承認事項からの逸脱 医薬品医療機器等法違反又は承認事項から逸脱する医薬品・医薬部外品・化粧品・再生医療等製品は回収の対象となります。
C. 不良範囲の特定に関する判断 当該不良がそのロット又は製品全体に及ぶものではないと明確に説明できない場合には回収の対象となります。
D. 混入した異物の種類と製品の性質からの判断 異物が混入又は付着しており、保健衛生上問題が生じないことが明確に説明できない場合には回収の対象となります。無菌製剤は、原則的に無菌性保証が確実か否かを重要な判断基準としてください。
2. 回収の決定
前述の判断の結果、回収を行うべきか、その必要がないかの判断を行います。 判断の最終的な責任者は総括製造販売責任者です。 回収することにした場合、具体的な必要措置について、品質保証責任者及び関係部門に速やかに指示します。
3. 納入施設への情報提供・回収措置
回収を決めたら、まず連絡する必要があるのが、実際にその対象製品を販売したり卸したりしている取引先(利害関係者)です。 回収が必要なロットを特定したら、各取引先に連絡し、事情を説明して返送してもらいます。 このときの送料は製造販売業者側が持つのが一般的です。
回収して戻ってきた不良品については、正常品と混ざったりしないように明示の上で、区画を分けて隔離保管します。
4. 行政への報告
都道府県の薬務課など担当窓口に対し、回収の報告をします。 都道府県の薬事関連のサイトには、報告のための指定フォームがあるので、必要事項を記入して報告します。
5. 「回収の概要」掲載 回収着手報告書提出
行政の報告と同時に着手報告書も提出し、回収を始めていることを報告します。
6. 回収終了報告書提出
回収対象の回収が漏れなく終わったことを確認し、「回収終了報告書」を作成して事業所のある都道府県へ提出します。 回収品については、行政が実地で確認することがあるので、自主的な判断で破棄や返送しないように、担当窓口に確認しましょう。 報告書には以下の記載が必要です。
回収結果
予め設定した範囲を漏れなく全て回収できたか、収支を記載すること
再発防止策として特に自社内で講じた措置
不良が起こってしまった根本的な原因を考慮して、今後同様の不良起こさないためのシステムや組織体制を構築するなどの対策を具体的に記載する。 「回収終了報告書」が提出され、回収作業が終了したことが確認でき次第、「回収情報(医薬品医療機器総合機構ホームページ)」の備考欄に「回収終了」の文字が入ります。
この後も、一般消費者や取引先に対する継続的な説明責任、対応責任は引き続き残りますので、最後まで気を抜かずに対応しましょう。
まとめ
化粧品のクレームは対応次第でブランドイメージを大きく損なう可能性をはらんでいます。
間違いのないように迅速に対応することは大切ですが、必要以上に萎縮する必要はありません。
この記事を参考にして、クレームや回収がおきても落ち着いて対応してください。