何十年も前から手作りせっけんのワークショップは各地で開催されており、小さなお子さまからご高齢の方までかんたんにシンプルな組成のせっけんが作れると人気です。
ここ十数年はオーガニック志向が食品のみならず化粧品にまで波及し、オーガニックコスメのセレクトショップや大手企業の手がけるオーガニックコスメブランドが増え市場は活性しました。
このようにオーガニックコスメ市場が活性する背景には、消費者の美意識・健康意識の高まりがあります。日本の化粧品消費者は特にそうした意識が高く、配合成分・有効成分の作用機序という機能面に関心を持ち、化粧品の外装だけでなく内容も吟味して購入を検討しています。
毎日使用する化粧品の成分にこだわりたい人、アレルギーを持っていて市販の化粧品でよく使われている成分が肌に合わない人、小さいお子さまと一緒に使用したい人などの間では、自分で一から作る「DIYコスメ」が人気です。
手作りせっけん・コスメを販売したい
手作りのせっけん・コスメを自分で使ってみて良いものが作れたと実感したら、それを他の誰かにも共有したいと考える人も多いのではないでしょうか。特定の成分でアレルギー反応を起こし皮膚トラブルに悩んだ方なら、なおのこと同じ悩みを抱える人々に自身の作った化粧品の存在で力になれたらと考えるかもしれません。
しかしながら、化粧品の販売はモノを売ることに関連する法令(製造物責任法、知的財産法)だけでなく、薬機法をはじめとするその他関連法規の理解が必要不可欠です。
それらの理解が不十分だと、故意ではなくとも薬機法に違反してしまう可能性が出てきます。各法令のご自身の販売したいアイテムに係る主要な点を押さえて、適切な販売事業を行いましょう。
薬機法に違反しないために
1. 販売したいアイテムの薬機法上の位置づけを確認
まず、ご自身が販売したいアイテムが薬機法上どのような位置づけになるか確認しましょう。
人の身体を(清潔にするもの/美化するもの)でかつ人体に対する作用が緩和なものは薬機法上の「化粧品」に、「化粧品」の機能に加え、にきび、肌荒れ、かぶれ、しもやけなどを防止する効能・効果をもつものは「医薬部外品」になります。
例えば、顔を洗うための洗顔料・唇を鮮やかに彩るためのリップカラーなら化粧品の取り扱いになります。洗顔料・リップカラーとしての機能に加え、肌あれ防止の効果をもつ製品なら医薬部外品の取り扱いになります。
手作りコスメのなかでも人気の高いアイテムで簡単な例を挙げてみました。実際に製品を設計する段階に入ると、化粧品の配合成分に関する基準、医薬部外品の配合成分に関する基準をしっかり把握しなくてはなりません。各法令の原文をご自身で確認できるよう、下記に公的資料のリンクをご案内します。
- 化粧品の配合成分に関する基準 一般にネガティブリスト・ポジティブリストと呼ばれる表が「化粧品基準」に記されています。成分の配合可否についてはこちらと照らし合わせ確認しましょう。
- 医薬部外品の定義(薬機法第二条第2項)(条文抜粋)
2 この法律で「医薬部外品」とは、次に掲げる物であつて人体に対する作用が緩和なものをいう。 三 前項第二号又は第三号に規定する目的のために使用される物(前二号に掲げる物を除く。)のうち、厚生労働大臣が指定するもの
- 医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律第二条第二項第三号の規定に基づき厚生労働大臣が指定する医薬部外品(平成二十一年二月六日)(厚生労働省告示第二十五号)
二十五 医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律第二条第三項に規定する使用目的のほかに、にきび、肌荒れ、かぶれ、しもやけ等の防止又は皮膚若しくは口腔(くう)の殺菌消毒に使用されることも併せて目的とされている物
- 化粧品の定義(薬機法第二条第3項)(条文抜粋)
3 この法律で「化粧品」とは、人の身体を清潔にし、美化し、魅力を増し、容貌ぼうを変え、又は皮膚若しくは毛髪を健やかに保つために、身体に塗擦、散布その他これらに類似する方法で使用されることが目的とされている物で、人体に対する作用が緩和なものをいう。ただし、これらの使用目的のほかに、第一項第二号又は第三号に規定する用途に使用されることも併せて目的とされている物及び医薬部外品を除く。
2. 化粧品・医薬部外品を販売するための許可の取得
**化粧品を製造・販売するためには、原則、「化粧品製造業」の許可と「化粧品製造販売業」の許可が必要です。**前者は化粧品製造のために定められた基準の設備・人員を有する製造所を持つ事業者が取得する許可、後者は定められた基準の品質保証・製造販売後安全管理体制・人員を有する事業所を持つ事業者が取得する許可です。
許可の取得までの流れに関しましては、東京都健康安全研究センターの手引きに分かりやすく記されていますので、詳細はこちらをご確認ください。
参考:東京都健康安全研究センター » 6 許可(登録)申請について (tokyo-eiken.go.jp)
医薬部外品の製造販売にあたっては「医薬部外品製造販売業許可」「医薬部外品製造業許可」が必要で、これらは化粧品の基準よりもより厳しい内容となっています。化粧品と同様に東京都健康安全研究センターの手引きが参考になります。
参考:東京都健康安全研究センター » 6 許可(登録)申請について (tokyo-eiken.go.jp)
3.販売名の届け出
厚生労働省の許可を得て製品を製造し市場に出荷できる状態が整ったら、「化粧品製造販売届書」を(化粧品製造販売業の許可を有する事業者が)事務所を置く都道府県に届け出を行います。東京都の場合は東京都健康安全研究センターです。
化粧品の販売名の設定にはルールが設けられています。販売名は化粧品のイメージを左右する大切な要素です。それは消費者にとっても購買を決定する重要な一要素になっているということです。ですので、消費者に有利・優良な誤認を与える恐れのないよう、販売名の設定にはルールが設けられています。
届け出が受理されないよくある例に配合成分のうち特定の成分の名称を含めた販売名があります。具体的には、あずき由来の原料を使用している化粧品に「あずき」という単語を含めるといった販売名のことです。
この他にも販売名に関するルールはいくつも存在します。届け出前の準備段階で仮の販売名を製品パッケージや販促物に使用してしまうと、「化粧品製造販売届書」が受理されなかった場合に時間も修正に要する費用も無駄になってしまいます。
販売名に関するルールの詳細は日本化粧品工業連合会の設けるガイドラインに記されています。届け出を行う前に一度通読してみてください。
13頁 F1.1 販売名の略称又は愛称を使用する場合 13頁 F1.2 販売名の略称又は愛称として使用できない名称
まとめ
本記事は手作りせっけん・コスメの製造販売を検討する事業者の手引きとなるよう、化粧品の製造販売について医薬部外品との相違点も踏まえながら分かりやすく記しました。この記事を参考にぜひご自身自慢の製品を世に発信してみてください。