以前は病院やクリニックのホームページに患者の「体験談」が掲載されていることがよくありました。 しかし、現在は「体験談」を医療広告に使用することNGとなっています。 また、医療機関側が費用を支払って他のホームページで広告を行う場合も規制対象となります。
本記事では、「体験談」の医療広告への使用が認められていない理由を説明していきます。 加えて、患者が医療を選択する際に有効となる情報が、ホームページで掲載可能となる「限定解除」という仕組みについても確認していきましょう。
医療機関のホームページも広告規制の対象に
多くの人は医療について専門的な知識が無いため、医療・医学情報を正しく理解するのは難しいと考えられています。このため、医療広告には厳格な広告規制が設けられているのです。
2017年に医療法が改正され、「医療機関のホームページも医療広告に含める」と見直されました。具体的な広告規制見直しの内容については医療広告ガイドラインで明らかにされています。
医療広告ガイドラインによると、病院やクリニックなどのホームページや、SNS(TwitterやInstagramなど)はもちろん、「他社に金銭を払って自院の紹介をしてもらう」ことも規制の対象となる可能性があります。 また、マスコミや広告代理店、アフィリエイターも規制対象となります。
「体験談」も医療広告規制の対象とされている
体験談は、患者が報酬を貰って掲載する場合は規制の対象となります。 一方、医療広告規制の対象外となるものには次のようなものがあります。
- 患者自らがSNS(TwitterやInstagramなど)で掲載する体験談
- 学術論文や発表
- 雑誌や新聞の記事(記事広告を除く)
- 院内の掲示・パンフレット
- 医療機関の職員募集広告
参考:医療広告ガイドライン
医療広告に掲載できる内容は限定されている
医療広告規制は、広告事項の限定と呼ばれる、広告可能な事項を定め、これ以外を広告することは認められないという考え方が基になっています 誤った情報により、患者が不利益を被ることを防ぐことが目的です。 広告可能な事項としては、次のようなものが挙げられます。
広告可能
- 医師、歯科医師である旨
- 診療科名
- 名称、所在地、電話番号、管理者名
- 診療日、診療時間、予約診療実施の有無
- 保険指定や労災保険指定などの旨
- 地域医療連携推進法人に参加している旨
- 入院等の設備や従業員数など
- 診療に従事する医師等の氏名や役職、略歴、専門性資格など
- 休日、夜間診療、セカンドオピニオン実施の有無、個人情報保護、平均待ち時間などに関する事項
- 紹介可能な他院の名称など
- 診療録等の情報提供に関する事項
- 厚生労働大臣が定めた検査、手術等の治療方法
- 手術件数、分娩件数、平均入院日数、患者数、平均病床利用率、DPC機能評価係数Ⅱで公表が求められる病院情報、治療結果分析の旨、セカンドオピニオン実施
- 救急病院や災害拠点病院等である旨、介護医療院等を併設している旨、院内サービス、医療機能の評価を受けている旨
参考:医療広告ガイドライン
広告不可
- 患者その他の者の主観または伝聞に基づく、治療等の内容・効果に関する体験談の広告
- 薬機法、景表法、不正競争防止法等に違反する広告
- 虚偽広告
- 比較優良広告
- 誇大広告
- 患者を誤認させる恐れがある治療前、治療後の写真等の広告(ビフォーアフター)
- 公序良俗に反する内容の広告
- 品位を損ねる内容の広告
参考:医療広告ガイドライン
このように、体験談は、人々に誤った認識を与える恐れがあると考えられ、広告可能な範囲とは認められていません。
医療広告の「限定解除」が認められる場合がある
一方で、広告可能とされている情報だけでは、患者が医療機関を選択するときに不便を感じることがあります。
医療機関や医療内容を適切に選択するためには、患者側に十分な情報を得られる環境が整っていることが重要です。 そのため、厚生労働省により、「医療に関する適切な選択が阻害される恐れが少ない場合には、幅広い事項の広告を認める」として、限定解除の仕組みを設けました。 限定解除が認められるための要件は次の通りです。
① 医療に関する適切な選択に資する情報であって患者等が自ら求めて入手する情報を表示するウ ェブサイトその他これに準じる広告であること ② 表示される情報の内容について、患者等が容易に照会ができるよう、問い合わせ先を記載する ことその他の方法により明示すること ③ 自由診療に係る通常必要とされる治療等の内容、費用等に関する事項について情報を提供する こと ④ 自由診療に係る治療等に係る主なリスク、副作用等に関する事項について情報を提供すること
出典:医療広告ガイドライン
個人的な「体験談」のSNS投稿は規制の対象外
体験談を医療広告に掲載することは認められていません。 しかし、次のような媒体に体験談を掲載することは、患者
側の個人的な発信であり、広告表現とは認められないことから、OKとなっています。
- 個人が運営するホームページ
- SNS(Twitter、Instagramなど)の個人ページ
- 第三者が運営する口コミサイト
しかし、これらの媒体への投稿であったとしても、医療機関が患者に広告料などを支払い、体験談の掲載を依頼していると認められる場合は医療広告に該当し、規制の対象となります。
「体験談」はその人だけに起きたことである可能性も
特定の個人に効いた治療内容や医薬品が、他の人にも効くかどうかは保証できるものではありません。 仮に「良い効果があった、病気が治った」と体験談に書かれていたとしても、その治療や医薬品を利用して、たまたま同じタイミングで症状が改善したという可能性もあります。
また、人は、偶然起きた現象だとしても、原因と結果に結びつけて考えてしまうものと考えられています。記憶が頭の中で塗り替えられてしまうこともあります。
こうした現象は、「思い出しバイアス(偏り)」と呼ばれており、「体験談」は「思い出しバイアス」による可能性もあるのです。
「体験談」は信頼性の低い情報とされている
信頼性の高い情報もあれば、低い情報もあります。 医学の世界において「体験談」は、情報としての信頼性が低いものとされているのです。治療内容や医薬品が「効く」と言うからには、「エビデンス(医学的・科学的根拠)」が求められます。エビデンスの高い情報は、再現性の高い情報と言い換えることができます。再現性とは、誰に対しても同じような結果が得られるか、ということです。
医学の世界では、「体験談」による情報は偶然や記憶の塗り替えによるものの可能性があることから、再現性が低いと考えられているのです。
まとめ
体験談は、あくまでその人の体験談であり、他の人に当てはまるとは限らないものです。 そのため、情報として信頼性が低く、医療広告としては不適切とされています。
近年、医療機関のホームページにも広告規制が適応されるようになり、ホームページの広告表現を再確認する必要が出てきています。 不適切な広告が掲載されていると、その医療機関が信頼されなくなってしまいます。 一般の人には医療情報の真偽を正確に判断できないため、不適切な広告があるせいで正確な情報も疑わしいものと思われてしまう可能性もあるのです。
広告可能事項をしっかり把握し、適切な広告表現を使うように心がけましょう。 最後までお読みいただき、ありがとうございました。