医療広告は多くの人が目にするため、虚偽・誇大広告による薬機法違反事例は数多く発生し、社会的にも大きな問題となっています。 2021年8月より、薬機法が改正されたことで医薬品等についての虚偽・誇大広告に対して新たに課徴金制度が導入されています。
本記事では、実際に起きた医療広告の違反事例を挙げながら広告規制違反と薬機法の課徴金制度について解説していきます。
薬機法違反に課徴金制度が導入
2021年8月より、薬機法の改正によって医薬品等についての虚偽・誇大広告に対して新たに課徴金制度が導入されました。
第六十六条 何人も、医薬品、医薬部外品、化粧品、医療機器又は再生医療等製品の名称、製造方法、効能、効果又は性能に関して、明示的であると暗示的であるとを問わず、虚偽又は誇大な記事を広告し、記述し、又は流布してはならない。
出典:医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律
これまでの罰金制度では、企業は罰金を払ってもそれ程の痛手にはなっておらず、結果的に抑止力となっていないのではと考えられたことが導入の理由とされています。
課徴金の対象となる違反広告
医療広告について、その内容が承認されたものと違った内容の広告表現をした場合は、「虚偽広告」にあたるとされています。 また、実際の物よりも優良・有利であると誤解させるような広告は「誇大広告」にあたります。 他にも、医師による効果の保証や堕胎の表現等も禁止されています。
第六十六条 2 医薬品、医薬部外品、化粧品、医療機器又は再生医療等製品の効能、効果又は性能について、医師その他の者がこれを保証したものと誤解されるおそれがある記事を広告し、記述し、又は流布することは、前項に該当するものとする。 3 何人も、医薬品、医薬部外品、化粧品、医療機器又は再生医療等製品に関して堕胎を暗示し、又はわいせつにわたる文書又は図画を用いてはならない。
出典:医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律
次に、実際に虚偽・誇大広告として薬機法違反となった広告の事例を紹介していきます。
「がんに効く」表現が虚偽広告にあたる事例
2019年8月、健康食品の広告に「がん細胞が自滅する」といった表現を使用し薬機法違反とされた事例がありました。がんに対する効能効果があるような表現は薬機法違反にあたります。 薬機法により、がんなどの重大な病気に対する広告には制限が設けられているので注意しましょう。
第六十七条 政令で定めるがんその他の特殊疾病に使用されることが目的とされている医薬品又は再生医療等製品であって、医師又は歯科医師の指導の下に使用されるのでなければ危害を生ずるおそれが特に大きいものについては、厚生労働省令で、医薬品又は再生医療等製品を指定し、その医薬品又は再生医療等製品に関する広告につき、医薬関係者以外の一般人を対象とする広告方法を制限する等、当該医薬品又は再生医療等製品の適正な使用の確保のために必要な措置を定めることができる。
出典:医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律
健康食品の虚偽広告で逮捕となった事例
2020年7月、健康食品広告で虚偽の内容を掲載されたとして関連企業社員や広告代理店の社員が逮捕されるという事例がありました。この事例では、健康食品に「肝臓疾患の予防に効果がある」といった内容が掲載されたことが問題になっています。
何人も、医薬品若しくは医療機器又は再生医療等製品であって、承認又は認証を受けていないものについて、その名称、製造方法、効能、効果又は性能に関する広告をしてはならない。
参考:医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律
「承認前の医薬品」には健康食品も該当します。
健康食品の広告で医薬品のような効果効能があるといった表現は使用しないように気をつけましょう。
課徴金の対象となる期間
課徴金の対象となる期間は、原則として違反広告を始めた日から辞めた日までの期間を指しています。 また、違反広告を行った場合は、一般の人々に誤解を生じる恐れを解消する措置をすぐに行うことが求められます。
課徴金対象期間には違反広告を止めてから3年間という上限が設けられています。
課徴金対象期間とは、課徴金対象行為をした期間(課徴金対象行為をやめた後そのやめた日から六月を経過する日(同日前に、当該課徴金対象行為により当該医薬品等の名称、製造方法、効能、効果又は性能に関して誤解を生ずる恐れを解消するための措置として厚生労働省令で定める措置をとったときは、その日)までの間に課徴金対象行為者が当該課徴金対象行為に係る医薬品等の取引をしたときは、当該課徴金対象行為をやめてから最後に当該取引をした日までの期間を加えた期間とし、当該期間が三年を超えるときは当該期間の末日から遡って三年間とする。)をいう。
参考:医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律
課徴金の金額は対象商品の売上の4.5%
課徴金の金額は、次のように定められています。
課徴金対象行為をした者があるときは、厚生労働大臣は、当該課徴金対象行為者に対し、課徴金機関に取引をした課徴金対象行為に係る医薬品等の対価の額の合計額の4.5%の額に相当する額の課徴金を国庫に納付することを命じなければならない。
参考:医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律
ただ、売上額が5000万円(課徴金額が225万円)未満の場合は課徴金納付命令が出されません。
参考:医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律
課徴金が減額される場合がある
虚偽・誇大広告にあてはまることを自主的に厚生労働大臣に報告した場合は、課徴金額の50%に減額される制度があります。ただし違反広告についての調査があったことで課徴金納付命令から逃れるために申告しても減額される訳ではありません。
厚生労働大臣は、課徴金対象行為者が課徴金対象行為に該当する事実を厚生労働省令で定めるところにより厚生労働大臣に報告したときは、規定により計算した課徴金の50%にあたる額を当該課徴金の額から減額するものとする。ただし、その報告が当該課徴金対象行為についての調査があったことにより当該課徴金対象行為について課徴金納付命令があるべきことを予知してされたものであるときは、この限りではない。
参考:医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律
また、不当景品類及び不当表示防止豪の課徴金納付命令を受けている場合は、課徴金の30%が減額されます。
厚生労働大臣は、当該課徴金対象行為について、当該課徴金対象行為者に対し、不当景品類及び不当表示防止法の規定による命令があるとき、又は同法第十一条の規定により課徴金の納付を命じないものとされるときは、対価合計額の30%の額を当該課徴金の額から減額するものとする。
参考:医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律
課徴金制度の他にも、措置命令が導入されている
薬機法改正により、違反広告に対する措置命令も導入されています。 措置命令の対象は次のような個人・法人が挙げられます。
- 当該違反行為をした者
- 当該違反行為をした者が法人である場合において、当該法人が合併により消滅したときにおける合併後存続し、又は合併により設立された法人
- 当該違反行為をした者が法人である場合において、当該法人から分割により当該違反行為に係る事業の全部又は一部を承継した法人
- 当該違反行為をした者から当該違反行為に係る事業の全部又は一部を譲り受けた者
参考:医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律
まとめ
薬機法違反での課徴金制度、措置命令の導入は、医薬品や医療機器業界にとって大きな衝撃となりました。 医療広告の作成に関わる人も、課徴金納付命令を出されないようにどのような内容が虚偽・誇大広告にあたるのか細心の注意が求められます。 医療広告にこの表示は使えるのか疑問に思ったら、薬機法に詳しい弁護士等の専門家に問い合わせてみましょう。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。