毎日使用する化粧品や健康食品、美容機器だからこそ、使っていて「癒される」商品を求めている人は少なくありません。 しかし、化粧品や健康食品、美容機器において「メンタル・心の不調に効く」「癒し」に関する広告表現は認められていません。
また、似た表現として「ストレス」などのワードも医薬品的な効能効果を表しているとされて薬機法違反となるので注意が必要です。
本記事では、「メンタル・心の不調」に関する広告表現について薬機法や景表法によって表現NGとなる理由や言い換え表現の具体例について解説していきます。
薬機法と化粧品、健康食品、美容機器
化粧品は、薬機法により次のように定義されているものです。
第二条 3「化粧品」とは、人の身体を清潔にし、美化し、魅力を増し、容貌を変え、又は皮膚若しくは毛髪を健やかに保つために、身体に塗擦、散布その他これらに類似する方法で使用されることが目的とされている物で、人体に対する作用が緩和なものをいう。
出典:医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律
化粧品広告に表示が認められる効能効果は厚生労働省が定めた56項目に限定されています。 また、美容機器においても広告表現として認められる効能効果は化粧品と同じ範囲と定められています。
これらで認められている範囲を超えるような広告表現を行った場合は、薬機法において誇大広告の禁止(66条)に違反すると判断されます。
第六十六条 何人も、医薬品、医薬部外品、化粧品、医療機器又は再生医療等製品の名称、製造方法、効能、効果又は性能に関して、明示的であると暗示的であるとを問わず、虚偽又は誇大な記事を広告し、記述し、又は流布してはならない。
出典:医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律
健康食品は「食品」に該当するため、薬機法の規制対象ではありません。しかし、健康食品において医薬品的な効能効果を広告に表示すると、その食品が「未承認の医薬品」とされてしまいます。 その結果、薬機法において承認前の医薬品の広告の禁止(68条)に違反すると判断されます。
第六十八条 何人も、医薬品若しくは医療機器又は再生医療等製品であって、まだ承認又は認証を受けていないものについて、その名称、製造方法、効能、効果又は性能に関する広告をしてはならない。
出典:医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律
景表法による優良誤認表示とは
景表法(景品表示法)では、商品やサービスの品質・価格について実際のものよりも著しく優良であると誤解されるような表示(優良誤認表示)を禁止しています。 化粧品や健康食品、美容機器において、実際には根拠が無いのにも関わらず「代謝促進」等の身体の構造、機能に影響を及ぼすといった表示をすることは、優良誤認表示とされて景表法違反となる恐れがあります。 優良誤認表示の疑いがある場合、消費者庁からその表示の裏付けとなる合理的な根拠を示す資料の提出が求められる場合があるので注意が必要です。
また、健康食品などの食品で「メンタルの不調に効く」等の健康増進効果について虚偽・誇大広告を行っていると判断される場合は、景表法の他にも健康増進法違反にあたります。
第六十五条 何人も、食品として販売に供するものに関して広告その他の表示をするときは、健康の保持増進の効果その他内閣府令で定める事項について、著しく事実に相違する表示をし、又は著しく人を誤認させるような表示をしてはならない。
出典:健康増進法
医薬品にあたるとされた場合の罰則
化粧品や健康食品、美容機器が医薬品や医療機器と判断されるような広告表現を行っていた場合、薬機法違反として2年以下の懲役もしくは200万円以下の罰金または両方が科されます。また、2021年の薬機法改正によって虚偽・誇大広告に対して課徴金制度が設けられました。 未承認の医薬品や医療機器の広告についても課徴金制度の導入が議論されていましたが、現在は虚偽・誇大広告のみが対象となっています。 今後も薬機法や景表法が改正され課徴金制度の導入が進む可能性があるため、広告作成には細心の注意を払う必要があると考えておきましょう。
医薬品的な効能効果を表すワードは使用NG!
化粧品や健康食品、美容機器において、「メンタル(心)の不調に効く」や「癒し」を表現することは認められないことが多く、注意が必要です。
「癒す」には「傷や病気など治す、苦しみを和らげる」という意味があります。これらの表現は医薬品的な効能効果とされるため、化粧品広告には使用できません。 実際の化粧品広告としては、「癒される」は「幸せな気持ちになる」といった意味合いとして使用されていますが、こうした場合でも「精神に対する作用」としてNG表現となる事例があるため注意が必要です。
「アロマテラピー(アロマセラピー)」という表現も、化粧品広告には使用が認められていません。「テラピー(セラピー)」といったワードを使用せず、「アロマの香りでリフレッシュ」など、「アロマ」だけに留めるようにしましょう。
「ストレス」というワードも広告表現NG
「ストレス」というワードは医薬品的な効能効果を表現するとされる場合が多いとされています。 「ストレス」は、「寒冷・外傷・精神的ショックなどによって起こる精神的緊張や生体内の防衛反応」を指しています。このため、身体の構造や機能に影響を及ぼす表現として医薬品的な効能効果にあたるため化粧品や健康食品、美容機器広告には使用がNGとなります。 「イライラ」などのワードもストレスを暗示する表現としてNGとなる恐れがあり、注意が必要です。
「心(ココロ)」は身体の構造や機能を表すワードとされる場合も
化粧品や健康食品、美容機器において、身体の構造や機能に影響を及ぼす表現は使用できません。メンタル(心)の不調においては、脳や自律神経に影響を及ぼす表現として、健康食品広告には不適切となります。また、「心(ココロ)」というワードも、「精神」という身体の構造や機能を指しているとされる場合があります。
アロマオイルは「化粧品」?「雑貨」?
アロマオイルは定められた使用方法によって雑品として扱われる場合と化粧品として扱われる場合に分かれます。香りを楽しむアロマオイルは、化粧品や医薬品としてではなく「雑貨」として扱われており、薬機法の規制は受けません。 しかし、身体にアロマオイルを塗って利用する場合などは「化粧品」として、薬機法の広告規制の対象となっています。 また、どちらの場合においても医薬品としての効果効能をうたった広告表現は薬機法違反となるため注意が必要です。
化粧品での違反事例
メンタル、心の不調に関する化粧品広告での使用がNGとなる内容には次のようなものがあります。
- 医薬品的な効果効能があるような表現(癒し、○○セラピー、○○テラピー)
- 不安を煽る表現(病気になる前に、すぐに対策しないと、このままでいいの?)
- 最大級表現(最大、最小、最適、ベスト、高級)
- 安全性の保証(安心安全、必ず効く、万能、確実、絶対)
- 有名人や専門家が推薦しているとした表現(芸能人推薦、医師も認めた)
- 他社を誹謗中傷するような内容(これまでにない、○○社製品より優秀です)
化粧品広告での使用が認められる表現
化粧品広告に使用がOKとなる効能効果は、原則として「化粧品等の適正広告ガイドライン」で定められた56項目に限られています。 メンタル、心の不調に関係している効能効果としては、次のようなものがあります。
- 香りにより毛髪、頭皮の不快臭を抑える
- 皮膚をすこやかに保つ
- 芳香を与える
また、使用感の表現(香りがいい、気持ちいい)はOKとなります。
化粧品広告での言い換え表現(参考)
化粧品の広告で代謝促進について表現する際に認められている言い換え表現をまとめました。これらの表現例を化粧品の広告を作成する際に参考にしてみてください。
「メンタル(心)の不調」に関する表現を言い換えたい時の具体例
NG:リラックスさせる OK:リラックスする時間に
NG:イライラ OK:余裕のない毎日
NG:ストレスが無くなる OK:リフレッシュ
健康食品での違反事例
サプリメントなどの健康食品広告での使用がNGとなる内容には次のようなものがあります。
- 医薬品的な効果効能があるような表現(癒し、予防、解消、分解、作用)
- 身体の変化についての表現(ストレス、血行促進、細胞活性、筋力増強)
- 特定部位を表す表現(精神、メンタル、心、脳)
- 症状や病名の記載(うつ病、生活習慣病、花粉症、食欲不振、冷え性)
- 用法用量の指定(寝る前に、必ず毎日、朝晩、1回2錠)
- 不安を煽る表現(すぐに対策しないと、後悔する前に、病気の信号です)
- 安全性の保証(安心安全、大丈夫、満足度、無害)
- その製品を使うだけで良いといった表現(食べるだけで痩せる、何もしなくても)
- 最大級表現(最小、最大、最高峰、一級、日本一、ベスト)
- 有名人や専門家が推薦しているとした表現(医師推薦、大学教授のお墨付き、○○も認めた)
- 他社を誹謗中傷するような内容(○○社製品より優れた、これまでにない)
健康食品広告での使用が認められる表現
健康食品の広告での使用がOKとなっている表現には次のようなものがあります。
- サポート表現(健康的な体を目指して、元気ハツラツ)
- 使用感の表現(甘くないので食事に合います、サラサラ、香りがいい)
使用には注意が必要となる表現
身体の部位を表すワードに合わせての使用はNGです。
- カラダにいい
- 元気はつらつ
- 若々しい
健康食品広告での言い換え表現例(参考)
健康食品広告でメンタル、心の不調について表現する際に認められている言い換え表現をまとめました。これらの表現例を健康食品の広告を作成する際に参考にしてみてください。
「メンタル(心)の不調」に関する表現を言い換えたい時の具体例
NG:メンタル、心の不調 OK:毎日の元気に
NG:心安らぐ OK:○○の香りでリフレッシュ
NG:抗うつ OK:気分スッキリ
美容機器、雑貨での違反事例
美容機器広告での使用が認められない表現方法やワードには次のようなものがあります。
- 医薬品的な効果効能があるような表現(治る、完治、万能、予防)
- 特定部位を表す表現(メンタル、心、精神、脳、自律神経)
- 身体の変化についての表現(メンタル向上、発汗作用、血行を良くする)
- 症状や病名の記載(うつ病、生活習慣病、自律神経失調症、食欲不振)
- 用法用量の指定(毎日5分だけ、朝晩に、就寝前に)
- その製品を使うだけで良いといった表現(使うだけで、何もしなくても)
- 不安を煽る表現(手遅れになる前に、周りから笑われてますよ、放っておくと大変なことに)
- 最大級表現(最小、最大、もっとも、最高、最上級、最先端)
- 安全性の保証(安心安全、疲れない、満足度、保証されている)
- 有名人や専門家が推薦しているとした表現(精神科医が認める、大学教授推薦)
- 他社を誹謗中傷するような内容(今までにない、○○社製品とは比べ物にならない)
美容機器・雑貨広告での使用が認められる表現
美容機器、雑貨の広告での使用がOKとなっている表現には次のようなものがあります。
- サポート表現(健康増進のために、美容にいい、運動をサポート)
- 使用感の表現(使用しやすい、軽い、心地いい、ひんやり、ふわふわ)
使用には注意が必要となる表現
身体の部位を表すワードに合わせての使用はNGです。
- 気分スッキリ
- 生活習慣が気になる方に
- 若々しい
美容機器、雑貨の広告での言い換え表現(参考)
美容機器広告でメンタル、心の不調について表現する際に認められている言い換え表現をまとめました。これらの表現例を美容機器の広告を作成する際に参考にしてみてください。
「メンタル(心)の不調」に関する表現を言い換えたい時の具体例
NG:メンタル、心の不調に効く OK:心地よいアロマの香り
NG:自律神経に効果がある OK:足裏を刺激し、気分スッキリ
NG:精神安定 OK:すっきりとした毎日のために
まとめ
コロナ鬱やストレス社会が問題視されているなか、化粧品や健康食品、美容機器を選択する際に良い香りのする商品に魅力を感じる人は多いといわれています。 しかし、癒しを目的とした商品であるという広告表現は化粧品や美容機器で認められた効能効果の範囲を超えているとされ、不適切となります。 また、健康食品においても医薬品的な効能効果を広告表現することは認められていません。 リラックス、セラピー、テラピーというワードの使用にも注意が必要です。薬機法・景表法違反とならないように、あくまで「アロマの香りでリフレッシュする」といった広告表現に留めておきましょう。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
※違反事例、言い換え表現についてはあくまで参考として捉えてください。表現の違反等の判断については各都道府県の薬務課によって見解が異なりますので、ご理解頂きますようお願いいたします。