コロナ禍によって頭髪、頭皮ケアに関係する市場規模は拡大し続け、約450億円以上ともいわれています。 育毛や発毛、抑毛関連の商品は様々なものが販売されていますが、中にははっきりとした根拠表示されていない商品も存在しているようです。
薬機法や景表法などの法律やガイドラインについて知らずに広告作成を行うと、薬機法違反となる広告表現を使ってしまう恐れがあるため注意が必要です。
本記事では、育毛や発毛、養毛剤の違いと、それぞれの薬機法上の分類、さらにそれぞれにおいて許される広告表現の範囲について解説します。
薬機法とは
薬機法66条では次の通り、医薬品、医薬部外品、化粧品等の虚偽誇大広告が禁止されています。
第六十六条 何人も、医薬品、医薬部外品、化粧品、医療機器又は再生医療等製品の名称、製造方法、効能、効果又は性能に関して、明示的であると暗示的であるとを問わず、虚偽又は誇大な記事を広告し、記述し、又は流布してはならない。
出典:医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律
虚偽・誇大広告を掲載し薬機法違反となった場合、2年以下の懲役もしくは200万円以下の罰金、またはこれらの両方が科されます。また、薬機法の広告規制の対象は「広告に関わる全ての人」と定められており、商品の公式ホームページやリスティング広告も広告規制の対象となっています。
薬機法の目的規制とは?
健康食品は「食品」に該当するため、正確には薬機法の対象ではありません。 しかし、健康食品について医薬品と同じような効能効果があるような広告表現を行うと、薬機法の規制を受けることがあります。これは、薬機法が「目的規制」という規制方法をとっているためです。
薬機法は、医薬品を「疾病の診断、治療又は予防に使用されることが目的とされているもの」「身体の構造又は機能に影響を及ぼすことが目的とされているもの」と定義しています。このため、実際には医薬品的な効能効果を持っていない製品であっても、医薬品的な効能効果を目的として販売すると、薬機法上の「医薬品」とみなされます。こうした考え方を「目的規制」と呼んでいるのです。
医薬品的な効能効果を広告表現として使用すると、たとえ商品のパッケージに健康食品と表示していたとしても、医薬品とみなされて薬機法の規制対象となる場合があるため注意が必要です。
景表法とは
景表法(景品表示法)は、不当な表示を規制し、消費者の利益を守るための法律です。不当表示には次のようなものが挙げられます。
- 優良誤認表示:商品やサービスの品質等の内容に関する不当表示
- 有利誤認表示:商品やサービスの価格等に関する不当表示
- 告示指定表示:その他の告示により指定された不当表示
化粧品や健康食品、美容機器について、事実とは違った効果効能を広告として表示することは、これらのうち優良誤認表示にあたります。
育毛、発毛、養毛の違い
薄毛対策の用剤には、育毛剤や発毛剤、養毛剤などさまざまな種類があります。これらは似たような名前で同じ物に思えますが、実はこれらの内容は大きな違いがあります。
また、医薬品、医薬部外品、化粧品といった分類によっても呼び方が変わります。これらの分類によって、広告規制や可能な広告表現の内容もそれぞれ違ったものになるため注意が必要です。
育毛剤と発毛剤、養毛剤は、それぞれ薬機法上において次のような違いがあります。
発毛剤
- 毛が抜けてしまった場合に、再度新しく毛を生えさせる作用のあるもの
- 毛母細胞に働きかけることによって直接発毛を促進する効果がある
- 一番強力な効果がある
- 医薬品に分類されるものが多い 成分によって第一類医薬品、第二類医薬品、第三類医薬品に分けられる
育毛剤
- すでにある毛の成長を促進することを目的とするもの
- 血行促進や皮脂分泌を抑制によって毛髪の成長を促し、次第に太い毛が生えてくる効果を目的とするもの
- すでにある毛の保護や脱毛予防も目的としている
- 養毛剤よりも効果が強く、有効成分が多く配合されている
- 医薬部外品に分類されるものが多い 有効成分が少ないものは化粧品に分類される場合がある
養毛剤
- 脱毛を予防し、毛髪を保護すること目的としている
- 有効成分は含まれていない
- 一番効果が弱い
- 化粧品に分類されるものが多い
育毛剤で医薬品、養毛剤で医薬品や医薬部外品と同じような効能効果を広告として表現することは薬機法違反となります。育毛剤については、医薬部外品に分類されるものを「薬用育毛剤」と呼び、化粧品に分類される育毛剤は養毛剤と同じ範囲の効能効果しか表示が認められていません。
美容機器・雑貨で「光脱毛」は表現NG
関連するジャンルである「脱毛」にも、家庭で処理ができる電気シェーバーなど美容機器や雑貨も数多くされています。フラッシュのような光を肌に当てることで、毛根にあるメラニン色素に影響を与え、半永久的に脱毛効果を持続させる脱毛方法を「光脱毛」と呼びます。
しかし、家庭用の美容機器や雑貨では、「光脱毛」という表現は認められていません。美容機器や雑貨の広告表示で「身体の構造・機能に影響を与えるような表現」や「病気の診断・治療・予防などへの機能や効果があるような表現」など、医療機器以外には使用が認められておらず、薬機法違反となる恐れがあります。美容機器や雑貨では物理的な手段による脱毛しか認められていないため注意が必要です。
また、光を利用して肌を整えたり、美容目的で使用される機器のことを「光美容器」と呼ぶことは広告表現としてOKとなります。
医薬部外品、化粧品での違反事例
毛髪や体毛に関する医薬部外品や化粧品広告での使用がNGとなる内容には次のようなものがあります。
- 医薬品的な効果効能があるような表現(発毛、治る、治療、完治、万能)
- 承認されていない効果効能に関する表現(白髪予防、皮脂腺を正常化、生やす、生えない)
- 不安を煽る表現(薄毛は恥ずかしい、周囲に迷惑、周りから笑われてますよ)
- 最大級表現(最大、最小、無類、抜群、オンリーワン)
- 安全性の保証(安心安全、100%、必ず効く、確実、絶対)
- 有名人や専門家が推薦しているとした表現(医師監修、大学教授の推薦、特許取得)
- 他社を誹謗中傷するような内容(従来の、○○社製品にはない)
医薬部外品広告での使用が認められる表現
医薬部外品広告に使用がOKとなる表現には、次のようなものがあります。
- 承認されている効果効能(育毛、養毛、脱毛予防、毛生促進、かゆみ、ふけ)
- サポート表現(美をサポート、忙しい毎日に)
- 使用感の表現(使いやすい、簡単、スカッと、さっぱり)
化粧品広告での使用が認められる表現
化粧品広告に使用がOKとなる効能効果は、原則として「化粧品等の適正広告ガイドライン」で定められた56項目に限られています。毛髪や体毛に関係している効能効果としては、次のようなものがあります。
- 毛髪をしなやかにする
- クシどおりをよくする
- 毛髪にハリ、こしを与える
また、使用感の表現(香りがいい、気持ちいい)はOKとなります。
医薬部外品広告での言い換え表現(参考)
医薬部外品の広告で毛髪や体毛について表現する際に認められている言い換え表現をまとめました。これらの表現例を化粧品の広告を作成する際に参考にしてみてください。
「発毛」「育毛」「抑毛」を言い換えたい時の具体例
NG:毛を生えにくくする OK:ムダ毛ケアができる
NG:自宅で簡単に永久脱毛ジェル OK:自宅で除毛ができるジェル!簡単に塗れる!
NG:うぶ毛を太くする効果 OK:育毛の促進効果
NG:発毛スプレーでふさふさに OK:育毛スプレーで薄毛対策
化粧品広告での言い換え表現(参考)
化粧品の広告で毛髪や体毛について表現する際に認められている言い換え表現をまとめました。これらの表現例を化粧品の広告を作成する際に参考にしてみてください。
「発毛」「育毛」「抑毛」を言い換えたい時の具体例
NG:このシャンプーは髪質を根本から変化させます OK:このシャンプーは毛髪をしなやかにします
NG:くせ毛を改善し、サラサラな髪質に OK:サラサラした質感で、クシどおりを良くしてくれます
健康食品での違反事例
サプリメントなどの健康食品広告での使用がNGとなる内容には次のようなものがあります。
- 医薬品的な効果効能があるような表現(発毛、療治、施術、予防、作用)
- 身体の変化についての表現(皮脂腺、生える、生やす、脱毛、永久脱毛)
- 特定部位を表す表現(白髪、メンタル、心、脳)
- 症状や病名の記載(薄毛、ハゲ、毛深い、脱毛症、抜毛症)
- 用法用量の指定(夕食後にお召し上がりください、1日1回必ずお飲みください)
- 不安を煽る表現(薄毛は恥ずかしい、放っておくと大変なことに、周囲に迷惑)
- 安全性の保証(安心安全、解消、解決、完全に)
- その製品を使うだけで良いといった表現(誰もがふさふさに、病院いらず)
- 最大級表現(最小、最大、ナンバーワン、世界一、日本一、ベスト)
- 有名人や専門家が推薦しているとした表現(医師監修、国の基準、厚生労働省)
- 他社を誹謗中傷するような内容(類を見ない、大手企業とは比べ物にならない)
健康食品広告での使用が認められる表現
健康食品の広告での使用がOKとなっている表現には次のようなものがあります。
- サポート表現(健康維持のために、美容のために、必要な栄養素を補う)
- 使用感の表現(べたつかない、塗り心地がいい、香りがいい)
使用には注意が必要となる表現
身体の部位を表すワードに合わせての使用はNGです。
- つるつる
- なめらか
- うるおい
- 女性らしさ
健康食品広告での言い換え表現例(参考)
健康食品広告で毛髪や体毛について表現する際に認められている言い換え表現をまとめました。これらの表現例を健康食品の広告を作成する際に参考にしてみてください。
「発毛」「育毛」「抑毛」を言い換えたい時の具体例
NG:肌がつるつるに OK:キレイをサポート
NG:女性ホルモンと同様の効果 OK:女性らしさを出す
NG:どんな効果が出るのか楽しみ OK:期待が高まります
美容機器、雑貨での違反事例
美容機器広告での使用が認められない表現方法やワードには次のようなものがあります。
- 医薬品的な効果効能があるような表現(光脱毛、発毛、正常化、効果、予防)
- 特定部位を表す表現(白髪、皮脂腺、精神、脳、自律神経)
- 身体の変化についての表現(生える、生えてこない、毛が細くなる、消去)
- 症状や病名の記載(薄毛、ハゲ、毛深い、円形脱毛症、抜毛症)
- 用法用量の指定(毎朝ご使用ください、夕食後に、1日1回必ずご使用ください)
- その製品を使うだけで良いといった表現(誰もがふさふさに、我慢せずに)
- 不安を煽る表現(薄毛は恥ずかしい、周りから笑われてますよ、放っておくと大変なことに)
- 最大級表現(最小、最大、一位、一等、無類、抜群)
- 安全性の保証(安心安全、一瞬で、即効、100%)
- 有名人や専門家が推薦しているとした表現(医師推薦、大学教授が認める、国の基準)
- 他社を誹謗中傷するような内容(今までにない、○○社製品より優れた)
美容機器・雑貨広告での使用が認められる表現
美容機器、雑貨の広告での使用がOKとなっている表現には次のようなものがあります。
- サポート表現(忙しい毎日に、健康維持のために、美容のために)
- 使用感の表現(使いやすい、簡単、スカッと、さっぱり、香りがいい)
使用には注意が必要となる表現
身体の部位を表すワードに合わせての使用はNGです。
- 美をサポート
- ビューティーレベルを底上げ
- 若々しい
- つるつる
美容機器、雑貨の広告での言い換え表現(参考)
美容機器広告で毛髪や体毛について表現する際に認められている言い換え表現をまとめました。これらの表現例を美容機器の広告を作成する際に参考にしてみてください。
「発毛」「育毛」「抑毛」を言い換えたい時の具体例
NG:光脱毛器 **OK:**光美容器
NG:頭皮をひきしめる **OK:**気持ちがひきしまる
NG:肌がつるつるに **OK:**キレイをサポート
NG:効果がある **OK:**実感が湧く
まとめ
「抜け毛が増えた」「髪のボリュームがなかなか出ない」など、多くの人が髪や頭皮についてストレスを抱えているといわれ、発毛や育毛を目的とした商品は数多く販売されています。
しかし、「発毛」という表現は医薬品にのみ使用が認められており、化粧品や健康食品、美容機器に使用すると薬機法違反となります。また、「光脱毛」のように、肌の表面を通り越して毛根に影響を与えることによる脱毛表現は医療機器のみに認められているため美容機器や雑貨には広告表現として使用ができません。 化粧品や健康食品、美容機器の広告への監視の目は年々厳しくなっているからこそ、薬機法や景表法などの法律やガイドラインに抵触しない広告作成が求められています。
本記事を薬機法や景表法などの法律やガイドラインに抵触しない広告作成の参考にしていただければ幸いです。 最後までお読みいただき、ありがとうございました。
※違反事例、言い換え表現についてはあくまで参考として捉えてください。表現の違反等の判断については各都道府県の薬務課によって見解が異なりますので、ご理解頂きますようお願いいたします。