近頃はブログなどのウェブサイトで広告を配信することが主流となっていますが、医療広告に関しても例外ではありません。
医療広告は広告運用の中でも比較的難しい傾向にあると言われています。
医療機関のWeb広告を配信する上で、ポイントとなることは、審査に落ちることなく医療広告の配信を続けることができるかということです。
そのためには、医療法や厚生労働省による医療広告ガイドライン、薬機法、健康増進法に則り、虚偽広告や誇大広告に該当しないよう十分注意する必要があります。
医療広告がこれらの法律に違反すると、保健所から調査が入ったり、中止命令、行政処分などが行われ、更に命令に従わなかったり、悪質な虚偽広告とみなされた場合には、6ヶ月以下の懲役、30万円以下の罰金などの罰則になってしまい兼ねません。
医療の世界において、医療を提供する側の知識は受け手である患者より遥かに専門性が高いため、受け手側の多くは書いてあることをそのまま受け入れる傾向にあると想定されます。
そのため、誤解を与えることがないよう受け手側を守る必要があり、医療広告は厳しく法律の下に置かれています。
本記事では、ブログで医療広告を発信する際に注意すべき重要な点を解説します。
医療広告とは
病院や診療所、薬局などの医療機関が、医療を提供する施設に関して出す広告を指します。
厚生労働省によって出されている医療広告ガイドラインでは、「医業若しくは歯科医業又は病院若しくは診療所に関する広告等に関する指針」として規定しています。
医療広告は主に医療法によって規定されていますが、補足として厚生労働省から医療広告ガイドラインが出ています。
医療広告ガイドラインによる医療広告の定義を以下に抜粋します。
1 広告の定義
次の①及び②のいずれの要件も満たす場合に、法第2章第2節「医業、歯科医業又は助産師の業務 等の広告」の規定による規制の対象となる医療広告に該当するものと判断されたい。
① 患者の受診等を誘引する意図があること(誘引性)
② 医業若しくは歯科医業を提供する者の氏名若しくは名称又は病院若しくは診療所の名称が特定可能であること(特定性)
なお、①でいう「誘引性」は、広告に該当するか否かを判断する情報物の客体の利益を期待して誘引しているか否かにより判断することとし、例えば新聞記事は、特定の病院等を推薦している内容であったとしても、①でいう「誘引性」の要件を満たさないものとして取り扱うこと。ただし、当該病院等が自らのウェブサイト等に掲載する治療等の内容又は効果に関する体験談については広告に該当すること(その上で省令第 1 条の 9 第 1 号の規定に基づき禁止されること)。
また、②でいう「特定性」については、複数の提供者又は医療機関を対象としている場合も該当す るものであること。
出典:医療広告ガイドライン
要するに、
①患者の受診等を勧誘する意図があること(誘引性)
②医療機関や医師の名称が特定可能であること(特定性)
この2つの条件を満たすものが医療広告に該当します。
医療広告の薬機法における規制について
医療広告について薬機法に定められる定義を以下に抜粋します。
第十章 医薬品等の広告 (誇大広告等) 第六十六条 何人も、医薬品、医薬部外品、化粧品、医療機器又は再生医療等製品の名称、製造方法、効能、効果又は性能に関して、明示的であると暗示的であるとを問わず、虚偽又は誇大な記事を広告し、記述し、又は流布してはならない。
2 医薬品、医薬部外品、化粧品、医療機器又は再生医療等製品の効能、効果又は性能について、医師その他の者がこれを保証したものと誤解されるおそれがある記事を広告し、記述し、又は流布することは、前項に該当するものとする。
3 何人も、医薬品、医薬部外品、化粧品、医療機器又は再生医療等製品に関して堕胎を暗示し、又はわいせつにわたる文書又は図画を用いてはならない。 (特定疾病用の医薬品及び再生医療等製品の広告の制限)第六十七条 政令で定めるがんその他の特殊疾病に使用されることが目的とされている医薬品又は再生医療等製品であつて、医師又は歯科医師の指導の下に使用されるのでなければ危害を生ずるおそれが特に大きいものについては、厚生労働省令で、医薬品又は再生医療等製品を指定し、その医薬品又は再生医療等製品に関する広告につき、医薬関係者以外の一般人を対象とする広告方法を制限する等、当該医薬品又は再生医療等製品の適正な使用の確保のために必要な措置を定めることができる。
2 厚生労働大臣は、前項に規定する特殊疾病を定める政令について、その制定又は改廃に関する閣議を求めるには、あらかじめ、薬事・食品衛生審議会の意見を聴かなければならない。ただし、薬事・食品衛生審議会が軽微な事項と認めるものについては、この限りでない。 (承認前の医薬品、医療機器及び再生医療等製品の広告の禁止)第六十八条 何人も、第十四条第一項、第二十三条の二の五第一項若しくは第二十三条の二の二十三第一項に規定する医薬品若しくは医療機器又は再生医療等製品であつて、まだ第十四条第一項、第十九条の二第一項、第二十三条の二の五第一項、第二十三条の二の十七第一項、第二十三条の二十五第一項若しくは第二十三条の三十七第一項の承認又は第二十三条の二の二十三第一項の認証を受けていないものについて、その名称、製造方法、効能、効果又は性能に関する広告をしてはならない。
出典:医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律
このように、薬機法では、
①虚偽・誇大広告等の禁止
②特定疾病用医薬品の広告の制限
③承認前医薬品等の広告の禁止
この3つの項目において規制されています。
医療広告における禁止事項
薬機法に基づく、禁止事例をそれぞれの項目別で詳しく解説していきます。
①虚偽・誇大広告の禁止
これは薬機法の規制条文(概要)において、
「・医薬品等の名称、製造方法、効能・効果、性能に関する虚偽・誇大な記事の広告・記述・流布の禁止。
・医師等が保証したと誤解を与えるおそれのある記事の広告・記述・流布の禁止。
・堕胎暗示、わいせつ文書・図画の使用禁止。」
と示されています。
虚偽広告とは
医学的根拠のないものや、実現不可能な事柄の記載がある医療広告は、虚偽広告として引っかかります。
例:
・「絶対安全な手術です」「1日で全ての治療が終了します」等の表現。
・効果があるかのように受け取られる写真を加工して使用すること。
誇大広告とは
人に誤解を与える広告は禁止されています。
「人に誤解を与える」とは、広告の内容から一般の人々が認識する「印象」や「期待感」と実際の内容に相違があることを常識的判断として説明できれば認められます。
特に誤認することを証明したり、実際に誤認したという結果までは必要とされていません。
例:
・サイトのURLやメールアドレスに「no1」の文字を入れること。
・実態のない「〇〇学会認定医」「〇〇協会認定施設」「〇〇センター」「〇〇研究所」等の記載を入れること。
・根拠に乏しい「〇〇をお勧めします」等の記載。
・回復して元気になるイメージ写真やイラストの添付。
そして、この規制は、一般人を含める全ての人々に向けた規制であり、医薬品などのメーカー、広告媒体企業、ライター、アフィリエイター、インフルエンサーなどもが規制の対象となっていることを抑えておく必要があります。
②特定疾病用医薬品の広告の制限
これは、薬機法の規制条文(概要)において、「使用に当たって、高度な専門性が要求される、がん、肉腫及び白血病の医薬品の医薬関係者以外の一般人を対象とする広告の制限。」と示されています。
これは、例えば、がんや白血病に用いられるような、特殊な専門知識を必要とする医薬品の広告は、医者や薬剤師などの資格のない一般の人々に向けて発信することができないということです。
③承認前医薬品等の広告の禁止
これら、法律で未だ承認されていない、又は承認待ちの医薬品や医療機器を広告宣伝することができないということです。
要するに、「医薬品」や「医療機器」と国から承認されたものしか宣伝広告できない、ということです。
ここで、間違えられやすいのが健康食品の扱いです。
薬機法では健康食品という定義はありません。健康食品はそもそも医薬品としての承認を受けていないため「承認前の医薬品」に該当します。
そのため、健康食品に医薬品のような効能、効果を表示すると薬機法第68条に違反する可能性が出て来ます。
ブログの医療広告
手軽に書けるブログですが、医療関係者がブログを書く場合には、「医療広告」の定義をしっかりと押さえている必要があります。
もし、先で述べたように、「誘因性」「特定性」の2つの条件を満たしていなければ、医療広告とは言えません。
「医療広告」と意図してブログを作成すれば、必要な知識を学んだ上でブログを書くことが多いでしょう。
しかし、知らず知らずのうちに法に引っかかってしまうケースの多くは、 一般的なブログ掲載としてウェブ上に掲載した文章が、知らずのうちに「誘因性」「特定性」の2つを満たしてしまっている、というケースではないでしょうか。
「誘因性」「特定性」の2つを満たしている時点で「医療広告」とみなされるため、その内容がガイドラインに則っていなければ、法律違反になってしまうことになるのです。
「医療広告」に審査落ちしてしまうNG例
(*医療広告規制におけるウェブサイトの事例解説書(令和3年7月 作成)より引用します。)
虚偽誇大広告の例
・どんな手術も成功する
「当院には、手術実績が豊富で高度な技術を持った医師が多く在籍しているため、どんなに難しい手術でも必ず成功させます!」
・絶対安全な治療
「数多くの症例をこなしてきた医師が多く在籍しているため、当院の治療はどのような症例でも絶対安全です!」
このようなことは医学上あり得ないことは明らかですので、NGとなります。
・「当院のサイトは、厚生労働省が定めた医療広告ガイドラインの遵守状況を確認する審査制度に基づき、 指定審査機関から認定証を取得したことをお知らせいたします。」
上記の例は、医療広告規制を遵守している旨について、制度として行政機関が認証を与えていると誤認させるような表現になっているのでNGとなります。
・医療機関名称が「○○インプラントセンター」
この例は、医療機関の名称としてセンターを記載していることがNGとなります。
体験談の例
体験談の記載に関しては、「医療広告ガイドライン第3の1(6)患者等の主観に基づく、治療等の内容又は効果に関する体験談」 の項目で、以下のように定められています。
「治療等の内容又は効果に関して、患者自身の体験や家族等からの伝聞に基づく主観的な体験談の広告をしてはならない。」
「こうした体験談について、医療機関への誘引を目的として紹介することは、個々の患者の状態等により感想が異なり得るもので あり、誤認を与えるおそれがあることを踏まえ、医療に関する広告としては認められない」とされています。
よって、治療内容または効果に関する体験談が掲載されている広告はNGとなります。
また、口コミサイトより治療内容または効果に関する体験談に相当する口コミを転機しているケースや、医療機関にとって有益な口コミを抜粋して掲載しているケースもNGとなります。
ビフォーアフター写真の例
「医療広告ガイドライン第3の1 (7) 治療等の内容又は効果について、患者等を誤認させるおそれがある治療等の前又は後の写真等」の項目で以下のように定められています。
ビフォーアフター写真の掲載に必要な情報が十分に記載されておらず治療等の内容又は効果について、患者等を誤認させるおそれがあるものについては広告することはできない、とされています。
よって、ビフォーアフター写真のみが掲載されていてそこに説明の記載がない広告はNGとされます。
まとめ
本記事ではブログで医療広告を掲載するときに気をつけるポイントを薬機法を中心にまとめました。
個人的に掲載するブログと医療ブログの違いは、誘引性と特定性の2つの条件を備えているか否かで違ってきます。
特に医療関係者がブログを掲載する際にはこの点をしっかりと押さえた上で、医療広告のガイドラインに則り、広告掲載の審査落ちしないようブログを作成していく必要があります。