毛髪や頭皮のケア商品によく使われる「浸透」。
この「浸透」の表現には、注意すべき点があり、知らずに使ってしまうと薬機法に違反するおそれが出てきます。 他にも毛髪ケアの広告表現には規制が多くあるため気をつけなければなりません。
この記事では、ヘアケア製品における効能効果の表現について解説します。
毛髪ケア化粧品の表現「浸透」は作用部位に注意
毛髪に関する化粧品の表現については、日本化粧品工業連合会による「化粧品等の適正広告ガイドライン」が参考になります。
「浸透」の作用部位はガイドラインで決められている
「浸透」は誤解を招きやすい表現のため、厳しいガイドラインがあるのです。
E3 「肌・毛髪への浸透」等の作用部位の表現 浸透等の表現は、化粧品の効能効果の発現が確実であるかのような暗示、及び効能効果の範囲を逸脱した効果を暗示するおそれがあるため、原則として行わないこと。 ただし、作用部位が角質層であることを明記した場合であって、かつ、広告全体の印象から効能効果の保証や効能効果の範囲の逸脱に該当するものでない場合に限って表現することができる。 なお、医薬部外品の有効成分の浸透等の表現を行う場合は、事実に基づき、承認を受けた効能効果の範囲を逸脱しないこと。
このように「浸透」という表現は、あたかも体内に浸透して効果を発揮するような暗示的な表現であるため、原則として使用しないようにガイドラインに書かれています。
例外として、作用部位が角質層や毛髪のみに限定されていれば、表現して良いと決められています。
特に医薬部外品の有効成分の浸透についての表記は、効果が過剰にならないように注意する必要があります。
毛髪への「浸透」の表現規制のポイント
毛髪への表現の規制は、ガイドラインでは以下のようになっています。
「毛髪への浸透」等の表現 「毛髪への浸透」表現は、角化した毛髪部分の範囲内で行うこと。
ポイント 1
基準に「角化した毛髪部分の範囲内」とありますので、毛根や頭皮などの毛髪組織であっても角化していない部分や、毛髪周辺に浸透するような記述をしてはいけません。 浸透するのは「毛髪だけ」です。なので、単純に「髪」とだけ表しましょう。
表現できる例
- 髪の内部へ浸透
- 髪の芯まで浸透
ポイント 2
成分が浸透することで、「治療的な回復」がなされるような表現は禁止です。 成分が浸透する事実のみを述べる程度にします。
表現できない例
- 傷んだ髪へ浸透して健康な髪が甦ります
- 浸透した〇〇成分が本質から髪質を改善
どこまでが髪の内部?
髪の毛の構造は、一番外側はキューティクル、中間部がコルテックス、中心部がメデュラとなっています。どこまでが「角化した髪の内部」と判断されるのでしょうか?
キューティクルはOK
キューティクルは髪の表面を指すため、具体的に「キューティクルまで浸透」としても差し支えありません。
コルテックスやメデュラはNG
キューティクルより内部の「コルテックスまで浸透」とすると、過剰表現とみなされます。なぜなら、化粧品は体の表面に使うもので、浸透する場所も体の表面の範囲内でなければいけないからです。コルテックスやメデュラは「表面」とは言い難いため、明言は避けましょう。
表現の使い分けで対応
具体的な成分の浸透を表現したい場合には「キューティクルに浸透」とし、それより内部への浸透を言及したい場合は「内部まで浸透」にします。
「補修」の表現にも薬機法の厳しい規制がある
浸透する成分がダメージケア成分のような場合は、どのように表現すればいいのでしょうか? この場合は、同ガイドラインの「毛髪の損傷等の補修表現」を参照します。
毛髪の補修は回復ではないことが大前提
毛髪の損傷と補修の定義は細かく決められていて、下記の範囲内で表現することになります。
毛髪の損傷等の補修のガイドラインにおける定義 ・毛髪の損傷等とは、物理的刺激あるいは化学的処理により毛髪からその構成成分が損失し、毛髪表面や内部組織の物性変化や剥離、空隙等が発生して傷んだ状態のことである。 ・毛髪の補修とは、損傷毛髪に対して、化学反応や薬理作用を伴わない補修成分を、表面に被覆あるいは内部浸透させて、表面や内部の損傷部位の空隙の密着等により、物理的に損傷を補い繕うことであり、治療的な回復のことではない。
ポイント1
ここでいう髪の損傷(ダメージ)は、紫外線やブラッシング、カラーリングなどによって生じたものです。 年齢や病的なものによる髪の傷みは対象外ですので、「年齢の表現(エイジングケア的)」を入れないように注意しましょう。
ポイント2
化粧品や薬用化粧品での「補修」は、成分が髪の傷んだ部分に付着したり、内部に染み込んだりしたことによって起こる物理的な変化でなければなりません。 例えば、キューティクルの補修であれば、「成分が傷んだキューティクルに浸透して髪をなめらかにする」ことは事実であれば標ぼうできます。 「成分が傷んだキューティクルに浸透して髪を蘇らせる」は、「髪を蘇らせる」という言葉が治療的な回復に相当するため不適切です。
表現できる例
補修表現は、化粧品の定義の範囲内の、毛髪の損傷等の物理的な補修表現で、事実であるものに限られます。その成分が毛髪の内部に「浸透」することを追加で表現する形が、一般的です。
- ○○成分が髪の内部まで浸透し、髪のダメージを補修します
- 傷んだ髪の芯まで補修します
表現できない例
化粧品の定義の範囲を逸脱した、毛髪の損傷等の治療的回復の表現は禁止されています。「ダメージを補修」といった表現を使う場合は、補修が成分の物理的な作用であることを強調し、治療的な回復でないことを明確にしないと違反と判断されます。
- 毛髪補修成分が傷んだ髪に浸透し、内側から再生
- 毛髪補修成分が髪の内部に浸透し、傷んだ髪が回復する
医薬部外品の育毛剤と絡めた表現
薬用シャンプーは、育毛剤といったスカルプケア(頭皮ケア)製品とセットになることも多い製品です。育毛剤と絡めた広告表現もできますが、効能効果を逸脱しないように注意しなければいけません。
判断基準の具体例
「育毛剤の浸透をサポートし、育毛に最適な頭皮環境を保つ」
こちらは不適切な表現例です。 前半部分の「育毛剤の浸透をサポート」は、頭皮の汚れを除去して浸透しやすくするという意味であれば、強調しない限り使用できます。後半の「育毛に最適な」は一般化粧品の効能を逸脱しているので不適切です。 「育毛」という表現は育毛剤(医薬部外品)のみ使用可能ですので、シャンプー・リンスなどで使わないようにしましょう。
「育毛剤と相性がいい」
この場合は完全に不適切ではありません。ただし、この文章だけだと育毛効果の関連性がある(育毛剤の効果を補助している)と読めるため、問題があります。頭皮の汚れを除去するなどの補足説明を入れるなどして、育毛剤との関連性を断ち切ることで、表現が可能になります。
まとめ
毛髪ケア製品は近年、市場も拡大していて新規参入も多くなっています。 プロモーションで他ブランドとの差別化をしたい場合、広告のコピーに有効成分の効果効能を強く打ち出したいものです。 しかし、薬機法をはじめとする規制の範囲を逸脱するような広告では逆効果になってしまいます。
薬機法を熟知したプロフェッショナルに相談するなど、知らず知らずのうちに違反してしまうことがないように気をつけましょう。