化粧品の効能・効果や、健康食品の機能について、学術論文をはじめとしたエビデンス(根拠)があると、消費者はその商品に魅力を感じます。販売業者としても他製品との差別化を図ることができ、エビデンスを示すことは非常に有効だと言えます。
しかし、化粧品や健康食品の広告にそのようなエビデンスを表記することは可能なのでしょうか。
本記事では、化粧品や健康食品の広告として論文をエビデンスに使えるのかについて解説していきます。
化粧品とは?健康食品とは?
化粧品は、医薬品などと同様に医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(医薬品医療機器等法、薬機法:旧薬事法)で下記のように定義されています。
この法律で「化粧品」とは、人の身体を清潔にし、美化し、魅力を増し、容貌ぼうを変え、又は皮膚若しくは毛髪を健やかに保つために、身体に塗擦、散布その他これらに類似する方法で使用されることが目的とされている物で、人体に対する作用が緩和なものをいう。ただし、これらの使用目的のほかに、第一項第二号又は第三号に規定する用途に使用されることも併せて目的とされている物及び医薬部外品を除く。
出典:医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律
一方健康食品は、法律で定義されているわけではありません。消費者庁ホームページでは、一般的に、健康に良いことをうたった食品全般のことをいうとされています。 また、健康食品のうち、特定保健用食品、機能性表示食品、栄養機能食品の3つを「保健機能食品」といいます。 健康食品は、薬機法で規制されているものではありませんが、その機能性に関して、医薬品のように記載されると薬機法に抵触する恐れがあるので注意が必要です。
化粧品の広告に関する規制
薬機法において、医薬品等の広告という項目で化粧品の誇大広告について規制が設けられています。
第六十六条 何人も、医薬品、医薬部外品、化粧品、医療機器又は再生医療等製品の名称、製造方法、効能、効果又は性能に関して、明示的であると暗示的であるとを問わず、虚偽又は誇大な記事を広告し、記述し、又は流布してはならない。
2 医薬品、医薬部外品、化粧品、医療機器又は再生医療等製品の効能、効果又は性能について、医師その他の者がこれを保証したものと誤解されるおそれがある記事を広告し、記述し、又は流布することは、前項に該当するものとする。
3 何人も、医薬品、医薬部外品、化粧品、医療機器又は再生医療等製品に関して堕胎を暗示し、又はわいせつにわたる文書又は図画を用いてはならない。
出典:医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律
上記のように、薬機法では、化粧品の効能効果について、虚偽又は誇大な広告表現を行いそれを拡散することを禁止しています。
また、化粧品の広告表現に関しては、「医薬品等適正広告基準」でも規制を受けています。 この基準の目的は、医薬品を含め、化粧品の広告が虚偽、誇大にならないようにするとともに、その適正化をはかることにあります。
さらに、薬機法や医薬品等適正広告基準の趣旨を基に、遵守するべき事項をわかりやすくするために、日本化粧品工業連合会(粧工連)が自主的に定めている「化粧品等の適正広告ガイドライン」があります。
健康食品の広告に関する規制
健康食品に関する誇大広告などについての規制は、消費者庁から発出されている「健康食品に関する景品表示法及び健康増進法上の留意事項について」より、不当景品類及び不当表示防止法(景品表示法)と健康増進法により行われています。 景品表示法では下記のように不当表示について規制を設けています。
第五条 事業者は、自己の供給する商品又は役務の取引について、次の各号のいずれかに該当する表示をしてはならない。
一 商品又は役務の品質、規格その他の内容について、一般消費者に対し、実際のものよりも著しく優良であると示し、又は事実に相違して当該事業者と同種若しくは類似の商品若しくは役務を供給している他の事業者に係るものよりも著しく優良であると示す表示であつて、不当に顧客を誘引し、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれがあると認められるもの
二 商品又は役務の価格その他の取引条件について、実際のもの又は当該事業者と同種若しくは類似の商品若しくは役務を供給している他の事業者に係るものよりも取引の相手方に著しく有利であると一般消費者に誤認される表示であつて、不当に顧客を誘引し、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれがあると認められるもの
三 前二号に掲げるもののほか、商品又は役務の取引に関する事項について一般消費者に誤認されるおそれがある表示であつて、不当に顧客を誘引し、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれがあると認めて内閣総理大臣が指定するもの
健康増進法においては食品の誇大表示について下記のように規制を設けています。
第六十五条 何人も、食品として販売に供する物に関して広告その他の表示をするときは、健康の保持増進の効果その他内閣府令で定める事項(次条第三項において「健康保持増進効果等」という。)について、著しく事実に相違する表示をし、又は著しく人を誤認させるような表示をしてはならない。
2 内閣総理大臣は、前項の内閣府令を制定し、又は改廃しようとするときは、あらかじめ、厚生労働大臣に協議しなければならない。
出典:健康増進法
商品や食品の表示について、消費者の選択に相当な影響を及ぼしたり、誤認させたりするような不当なものは認められません。
論文をエビデンスとして使える?
まず化粧品に関して「医薬品等適正広告基準の解説及び留意事項等について」では、(5)効能効果等又は安全性を保証する表現の禁止の項目において、次のように記載されています。
(3)臨床データ等の例示について 一般向けの広告にあっては、臨床データや実験例等を例示することは消費者に対して説明不足となり、かえって効能効果等又は安全性について誤解を与えるおそれがあるため原則として行わないこと。
この記載によると、論文を引用してエビデンスとする際に、一般消費者から見てすぐに理解し難い臨床データや実験例などを広告に載せることはかえって誤解を与える可能性があるとしています。
また、健康食品に関しては、「健康食品に関する景品表示法及び健康増進法上の留意事項について」に記載があります。 健康増進法では、健康保持増進効果等について、著しく事実とは異なった表示をし、又は誤認させるような表示をしてはいけないとされています。 ここで、健康保持増進効果等として、これを暗示的又は間接的に表現するものも健康保持増進効果等に当たるとしています。
具体例としては
- 新聞、雑誌等の記事、医師、学者等の談話やアンケート結果、学説、 体験談などを引用又は掲載することにより表示するもの
- 医療・薬事・栄養等、国民の健康の増進に関連する事務を所掌する行政機関(外国政府機関を含む。)や研究機関等により、効果等に関して認められている旨を表示するもの
が挙げられています。
参考:健康食品に関する景品表示法及び健康増進法上の留意事項について
上記より、健康食品の広告においては、エビデンスとして論文を使用することは不可能ではありません。 しかし、それが著しく事実とは異なったり、消費者に誤認させるような内容であると、不当表示に当たる可能性があります。 例えば、健康食品の広告において、病気の治療や予防、診断を目的とする効能効果があるかのように表現することは不当表示に当たります。
まとめ
化粧品の広告に関して、論文をエビデンスとして使用することは、かえって消費者に誤認を与える可能性があるとして原則認められていません。
健康食品に関しては、論文をエビデンスとして使用することはできるものの、それが医薬品のような効能効果あるといった表現や、虚偽誇大な表現になる場合は不当表示に当たる可能性があります。