電車の中には、脱毛についての広告が沢山貼ってあります。 レーザー脱毛や光脱毛、アートメイクなどは、簡単にきれいになれる方法として、女性に人気があります。ところが、違法行為が相次いでいることも確かです。 「やけどをした」「痛みを感じる」「傷が残ってしまった」といった被害報告は後を絶たず、逮捕者が出た事例も多くあります。
そのため、脱毛施術の広告には薬機法、景表法、医師法によって厳しく規制が設けられているのです。
本記事では、広告表現に関する法律や、医療脱毛とエステ脱毛の違いについて解説していきます。 エステティックサロンや医療脱毛などの広告主や広告制作に関わる人は、これらの法律と広告制限の関係について確認しておきましょう。
脱毛施術によるトラブル事例
独立行政法人国民生活センター「なくならない脱毛施術による危害」によると、脱毛施術による皮膚障害、熱傷のトラブルが多く報告されています。
危害事例を施術の内容別に集計すると、エステは「光脱毛」、「レーザー脱毛」、「電気脱毛」の順におおくみられました。医療機関は、「レーザー脱毛」が大部分を占めていました。
危害の程度別に集計すると、エステは57.3%、医療機関は67.0%が、発生した危害について医療機関で治療を受けており、治療に長期間を要した事例もみられました。
出典:独立行政法人国民生活センター「なくならない脱毛施術による危害」
脱毛やエステの広告表示に関わる法律
脱毛サロンやエステティックサロンの広告には使用が認められない広告表現があります。 これらは1つの法律によってではなく、主に薬機法、景表法、医師法の法律ごとに禁止されている表現があるためです。 それぞれの法律について、詳しく解説していきます。
薬機法
薬機法は、医薬品や医療機器に適用される法律です。 エステティックサロンで使用される機器や化粧品は、医療機器や医薬品ではありません。そのため、薬機法に触れる広告表現が認められていないので注意が必要です。
薬機法違反の疑いがある場合は、消費者庁から通知が届き、調査が行われます。 調査に協力しない場合、強制的な立ち入り調査が行われ、調査後に薬機法違反が認められた場合は消費者庁から指導が入ります。 悪質な広告表現と認められた場合は、消費者庁から措置命令が出される場合もあります。 措置命令に従わなかった場合、景表法第36条により2年以下の懲役または300万円以下の罰金が科されます。 調査や指導となるきっかけは、「同業者からの情報提供」「利用者からの苦情」「行政パトロール」によるものが多いようです。
景品表示法(景表法)
景品表示法(景表法)は、商品やサービスについて、内容、価格、品質などの情報を偽っている不当な表示や、実際よりも良いものに見せている過大な景品類の提供を制限・禁止する法律です。 景表法は誤解を招く広告表現を記載している全ての業種から消費者を守ることを目的としています。
薬機法同様、「調査」「指導」「措置命令」の流れとなります。 措置命令に従わなかった場合、景表法第36条により2年以下の懲役または300万円以下の罰金が科されます。
医師法
医師法は、医師免許や業務等についての法律です。 医師法に違反すると、1年以下の懲役もしくは100万円以下の罰金が科されます。 医師法違反となる事例は次のようなものがあります。
- 医師免許を取得せずに医療行為を行った場合
- 医師免許を取得せずに医療行為を行い、医師に類似した名称を利用した場合
脱毛サロンは医師法違反に注意が必要
医師法違反での摘発が多いのがレーザー脱毛や光脱毛です。 医療資格なしでレーザー脱毛を行い、逮捕された事例もあります。これは医師法違反のうち、「医師免許を取得せずに医療行為を行った場合」に該当します。 「医師のみができる脱毛」と「医師免許が無くてもできる脱毛」の境界線をしっかり認識しておく必要があります。
レーザー脱毛は「医療行為」
レーザー脱毛は、やけどなどの被害を及ぼす可能性があることがら「医療行為」とされています。
また、レーザー脱毛でなくても、施術後にやけどの可能性がある脱毛施術については「医療行為」とされ、医師免許を取得せずに行った場合は医師法違反になると考えられます。 毛根を破壊するようなレーザー脱毛・光脱毛は医師によるものしか認められていません。
逆に言えば、毛根を破壊するようなレーザー脱毛・光脱毛でなければ医師や医療機関でない場合でもこれらの実施や広告制作はOKになります。 ただし、「危害が無く、安全な施術である」といったような、利用者に誤解を招く広告表現は規制の対象となる可能性があります。
「医療脱毛」と「エステ脱毛」の違い
医療行為としての脱毛(医療脱毛)とそうでない脱毛(エステ脱毛)は、次のようにまとめることができます。
医療脱毛=医師のみができる脱毛
- 毛根部分を破壊する脱毛(永久脱毛、完全脱毛)
- やけどのリスクがある脱毛行為
エステ脱毛=医師免許が無くてもできる脱毛
- 毛根部分を傷つけない脱毛
- やけどのリスクが無い脱毛行為
脱毛サロンやエステティックサロンの広告を作成するときは、安全面において利用者誤解を招く表現は避けなければなりません。そのためにも、薬機法、景表法、医師法に違反していないかしっかり確認しましょう。
医療脱毛の広告表現の注意点
では実際に、医療脱毛の広告制作ではどのような点に注意が必要でしょうか?大きく分けて、次のような注意点があります。
- 広告可能事項の限定解除の要件を満たす
- 医療脱毛に関する詳しい説明をホームページ上に掲載する
- 費用や治療回数の目安などを分かりやすく表記している
- 医療脱毛が自由診療であることを誤解が生じないように表記している
- 医療脱毛の向き不向きやリスクなどを掲載している
医療脱毛の広告制作には、限定解除の要件を満たすことが特に重要です。 医療脱毛の機器には未承認の医療機器を使用することが多いことも、理由の一つとなっています。 医療広告ガイドラインにおいて、限定解除の要件を定めているので確認しておきましょう。
医療広告の限定解除の要件
医療広告において、次の要件を全て満たすことで広告可能事項の限定解除が認められます。
① 医療に関する適切な選択に資する情報であって患者等が自ら求めて入手する情報を表示するウェブサイトその他これに準じる広告であること ② 表示される情報の内容について、患者等が容易に照会ができるよう、問い合わせ先を記載することその他の方法により明示すること ③ 自由診療に係る通常必要とされる治療等の内容、費用等に関する事項について情報を提供すること ④ 自由診療に係る治療等に係る主なリスク、副作用等に関する事項について情報を提供すること
出典:医療広告ガイドライン
これらの要件の表記は、利用者が見たときに分かりやすく書かれていることが必要です。
Q5-11 広告可能事項の限定解除の要件としてウェブページに記載することが求められている事項について、どのような点に留意して記載すればよいのでしょうか。(P.11) A5-11 限定解除要件については、患者が容易に視認できることが必要です。例えば、以下のようなケースは容易に視認できる状態ではないと考えられます。
- 文字が極端に小さく容易に確認が出来ないと考えられるもの
- 背景色と同じあるいは同系統の文字色で記載されているなど、配色に問題があると考えられるもの
- 意図的に情報量を増やし、必要事項を見逃す恐れがあると判断できるもの
なお、患者の求めがあった場合には、広告可能事項の限定解除の要件として記載されたものと同じ内容を紙面等で提供することが望ましいと考えられます。
また、使用する医療機器が未承認のものである場合、その旨を広告に表記することが求められます。
まとめ
近年、脱毛サロンによる違法医療行為の摘発が相次ぎ、世間的にも注目を集めています。 悪質な脱毛行為は人体を傷つける可能性があるため、美容医療においても規制はますます強化されることが予想されます。
同時に、これらの広告表現についても規制が高まる可能性があります。 脱毛サロンやエステティックサロンの広告を作成するときは、薬機法、景表法、医師法に違反していないかしっかり確認しましょう。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。