美容に関する化粧品や健康食品、美容機器にはさまざまなものがあります。
最近では男性の美容への関心も高まっており、美容系製品の需要は益々増加しているといえるでしょう。
市場に出回る美容系商品を目にすると、「細胞」「肌細胞」というワードを多く目にします。
化粧品、健康食品、美容機器それぞれの広告においては、薬機法、景表法などといった国の法律で厳しく規制が定められています。
法律をよく理解すると、実は「細胞」「肌細胞」といったワードは、使い方によって法律に抵触する場合が出てくることがわかります。
本記事では、これらのワードを広告する際に、どのような表現なら使用することができるのか、 法律の説明、OK表現、NG表現も含め、詳しく解説していきます。
薬機法とは
薬機法の正式名称は「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律」です。
一般的に「医薬品医療機器等法」又は「薬機法」と呼ばれています。
薬機法は、医薬品等を製造、販売、広告する際に必要な法律であり、製造、表示、販売、流通、広告などについて細かく定められています。
要するに、対象となる製品の品質、有効性、安全性の確保のために必要な規制を行うことを目的とした法律です。
薬機法の対象となるものは以下の4つに分類されます。
①医薬品
治療や予防を目的とし、人のカラダを変える効果があるもの。
例
かぜ薬、鎮痛剤、鼻炎薬、胃腸薬、目薬、整腸剤、下痢止め、便秘薬、発毛剤など
②医薬部外品(薬用化粧品)
予防を目的とし、医薬品と比べ、効果がゆるいもの。
例
うがい薬、日焼け止め、薬用入浴剤、育毛剤、除毛剤、栄養ドリンク、薬用シャンプー、
薬用歯磨き粉、肌荒れ予防クリーム、コンタクトレンズ装着薬、制汗スプレーなど
③化粧品
キレイ、清潔にすることを目的とし、医薬品、医薬部外品と比べ、人の体にゆるく作用するもの。
例
シャンプー、トリートメント、美容液、シミ対策クリーム、歯磨き、石鹸、香水、マスカラ、
ネイルクリーム、リップクリームなど
④医療機器
治療や予防を目的とし、人のカラダを変える効果があるもの。
例
コンタクトレンズ、血圧計、補聴器、体温計、AED、レーザー治療機器、家庭用マッサージ器、
コンドームなど
⑤再生医療等製品
人の細胞に培養等の加工を施したものであって、身体の構造・機能の再建・修復・形成、疾病の治療・予防を目的として使用するもの。
また、遺伝子治療を目的として、人の細胞に導入して使用するもの。
例
・軟骨再生製品、皮膚再生製品(細胞を使って身体の構造等の再建等を行う)
・癌免疫製品(細胞を使って疾病の治療を行う)
・遺伝性疾患治療製品(遺伝子治療)
薬機法による広告規制
薬機法の広告規制は、薬機法10章「医薬品等の広告」で定められています。
広告規制として、大きく分けて次の3か条で構成されています。
誇大広告の禁止(66条)
特定疾病用の医薬品及び再生医療等製品の広告の禁止(67条)
承認前の医薬品、医療機器及び再生医療等製品の広告の禁止(68条)
また、ここで重要なことは、この法律は全ての人々を対象にしているということです。
即ち、その商品の製造業者・製造販売業者などのメーカーだけではなく、その広告に携わるすべての人に対して責任を問われることがあるということです。
景表法(優良誤認表示)とは
景品表示法の正式名称は「不当景品類及び不当表示防止法(昭和37年法律第134号)」です。
景品表示法は、商品やサービスの品質、内容、価格等を偽って表示すること(優良誤認表示)を厳しく規制し、過大な景品類の提供を防ぎ、その商品の消費者への誤った認識を防ぐための法律です。
要するに誇大広告などによる大げさな宣伝により、消費者を惑わすことを防止するために大切な法律となります。
優良誤認表示による景表法違反が疑われる場合には、広告内容の客観的根拠となる資料の提出を求められる場合があります。
薬機法、景表法の大まかな内容を理解した上で、化粧品、健康食品、美容機器それぞれについての広告が「細胞」「肌細胞」というワードを使用する際、どのように注意が必要となるのか、その違反事例、OK表現、NG表現を以下にまとめていきます。
化粧品の定義
化粧品は日常当たり前に使われているものですが、法律においてどのように定義づけられているのかをまず見ていきます。
上記にも示したように、化粧品は薬機法の中で定義づけられています。
薬機法第2条3項 この法律で「化粧品」とは、人の身体を清潔にし、美化し、魅力を増し、容貌ぼうを変え、又は皮膚若しくは毛髪を健やかに保つために、身体に塗擦、散布その他これらに類似する方法で使用されることが目的とされている物で、人体に対する作用が緩和なものをいう。ただし、これらの使用目的のほかに、第一項第二号又は第三号に規定する用途に使用されることも併せて目的とされている物及び医薬部外品を除く。
引用元:医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律
このように化粧品に関して定義づけられており、また、第66条に誇大広告の禁止として広告規制について定められています。
「細胞」「肌細胞」は広告で謳える?
細胞レベルとは
化粧品は薬機法とは別に、日本化粧品工業連合会(粧工連)にて化粧品等の適正広告のガイドラインが示されており、そこでルールとして、「化粧品で細胞レベル(角質層を除く表皮、基底層、真皮、皮下組織等を含む)の表現をすることは、化粧品の定義や効能効果の範囲を逸脱することになるので行わないこと」と示されています。
では「細胞レベル」とは何を指すのでしょうか。
まず皮膚の構成は、その深度によって表面から「表皮(角質層・基底層)→真皮→皮下組織」という構造になっています。
ガイドラインには「角質層を除く」と書かれてあるため、「細胞レベル」とは、角質層を除いた深部の細胞を意味することとなります。
ということは、「細胞」と一言に表現された時に、角質層の細胞は問われないということになります。
「細胞」という表現は「角質細胞」などと「角質層」に言及していることがわかれば可能ということになります。
しかし、「細胞レベル」というワードはNGとなってきます。
肌細胞とは
肌細胞とは真皮繊維芽細胞と呼ばれ、皮膚の下の真皮にあり肌の弾力を保つコラーゲン、ヒアルロン酸、エラスチンなどを生成している組織です。
この肌細胞は加齢やストレス、紫外線などによって減少するため、これらの外的環境の変化により、シワや肌のたるみが増強すると考えられています。
要するに「肌細胞」というワードを記載することは、細胞レベルの表現をすることに当たるため、法律に抵触する恐れがあることがわかります。
幹細胞化粧品ってなに?
化粧品の中で「幹細胞コスメ」という言葉を見聞きしたことがある人も多いのではないでしょうか?
これは「幹細胞」という明らかに医療的に思われる言葉が含まれていますが、「幹細胞コスメ」とはどういったものなのかをまず見ていきます。
「幹細胞コスメ」という表現からすると、幹細胞自体が成分として化粧品の中に入っていると思ってしまいますが、実際は違います。
このように、消費者を惑わす表現であることから粧工連ガイドラインでは、「幹細胞コスメ」という表現自体がNGとなっています。
幹細胞コスメの成分は、実際は「幹細胞」自体が入っているのではなく、幹細胞の培養液を抽出した成分が入っています。
原料のメーカーではこの成分を「幹細胞培養液」「幹細胞抽出液」と呼んでいます。
幹細胞化粧品の扱いでは、幹細胞自体が入っているのではなく、幹細胞抽出液が入っていることを消費者に理解させる広告表現をすれば、「細胞」というワードが入っていること自体ではNGとはなりません。
化粧品での違反事例
・当社商品には「幹細胞」が入っています。
幹細胞化粧品には「幹細胞」が入っているわけではないため、「幹細胞抽出液が入っています」などと実際に入っているものを正確に明記する必要があります。
また、「幹細胞エキス配合」と記載していても、「幹細胞エキスがあなたの肌をよみがえらせます」などと、直接人体に効果があると思わせる表現をするとNGとなります。
・○○細胞に着目した化粧品
・細胞由来の力
これらの表現も薬機法で定められた効果効能の範囲を逸脱することになるのでNGとされています。
・肌細胞に直接働いてシミ、しわを撃退!
・細胞レベルにアプローチして潤いを改善!
「肌細胞」「細胞レベル」はいずれも肌の角質層以下の真皮を表すため、身体に変化を与える表現としてNGとなります。
化粧品広告での使用が認められる表現
化粧品において使用可能な効能の表現の範囲が56個の項目に定められています。
その中で、「細胞」「肌細胞」を表現する際に言い換えられる表現を以下に抜粋します。
・肌を整える。
・肌のキメを整える。
・皮膚をすこやかに保つ。
・肌荒れを防ぐ。
・肌をひきしめる。
・皮膚にうるおいを与える。
・皮膚の水分、油分を補い保つ。
・皮膚の柔軟性を保つ。
・皮膚を保護する。
・皮膚の乾燥を防ぐ。
・肌を柔らげる。
・肌にはりを与える。
・肌にツヤを与える。
・肌を滑らかにする。
・ひげを剃りやすくする。
・ひげそり後の肌を整える。
・日やけを防ぐ。
・日やけによるシミ、ソバカスを防ぐ。
・乾燥による小ジワを目立たなくする。
引用元:化粧品の効能の範囲の改正について
化粧品広告での言い換え表現(参考)
以上を参考に「細胞」「肌細胞」に関係する広告表現をしたい時の言い換え表現をOK表現、NG表現として以下に挙げます。
「細胞」「肌細胞」に関する表現を言い換えたい時の具体例
NG:老化した肌細胞を活性化
OK:年齢肌をイキイキとした肌へ導く
NG:お肌の細胞活性化します。
OK:お肌のキメを整えます。
NG:細胞レベルでの若返りを目指す
OK:ハリ、ツヤのある肌を目指す
健康食品での違反事例
肌細胞にアプローチする健康食品として、ビタミンCやコラーゲンなど「繊維芽細胞を活性化する成分」を配合したサプリメントが開発、販売されています。
しかし、これらの成分を口から摂取したところで直接的に美肌成分になるわけではないと言われています。
また、健康食品は健康を維持するためのサポート食品であり、直接身体に変化を与えるという表現は認められていません。
例
・美肌に必要な繊維芽細胞を活性化させるサプリメントです。
これはサプリメントを飲むことで身体への変化が現れることを表現しているため認められません。
健康食品広告での使用が認められる表現
健康食品の広告で認められる表現として以下に例を挙げます。
・「美容のために」「必要な栄養素を補う」などのサポート表現
・「さっと飲める」「おいしい」「食べやすい」などの 使用感の表現
・「元気」「ハリがある毎日」など気分的な表現
・「きれいに」「女子力アップ」など抽象的な表現
健康食品広告での言い換え表現例(参考)
健康食品の宣伝において、「細胞」「肌細胞」について記載する際、体に直接変化をもたらす表現を避け、健康の維持を目的とした表現や、栄養素の保管に着目した表現に言い換えることが必要です。
また、ただ単に、「キレイになる」として伝えると、抽象的な表現となり認められています。
以下にOK例、NG例を参考として挙げていきます。
「細胞」「肌細胞」に関する表現を言い換えたい時の具体例
NG:肌細胞を活性化させ若返ります。
OK:きれいでハリのある毎日になります。
NG:新陳代謝が活発に、新しい細胞にどんどん生まれ変わる。
OK:女子力アップし、どんどん綺麗に。
NG:肌細胞を活性化するコラーゲン配合
OK:コラーゲンのパワー!
美容機器、雑貨での違反事例
美容機器は、景表法において、 「身体(肌を含む)の構造・機能に影響を与えないもので、単に美容(洗顔や化粧品を塗る動作の代用程度)を目的とするもの」 として定められています。
身体の構造・機能に影響を与えるものは医療機器に該当する可能性が高くなり、薬機法に抵触する危険性が出るため、表現には注意が必要。
例:
・美顔器に効果で細胞レベルにまで浸透
化粧品と同様、角質層までの表現に止める必要があり、細胞レベルへの浸透表現は認められていません。
・微弱な振動によりお肌の細胞を修復
肌機能に影響を及ぼすことは薬機法違反となります。
・肌細胞の活性化に働きかけスキントラブルに絶対的な効果、即効性
身体の変化を表現しており、「即効性」という表現も誇大広告となり薬機法、景表法に引っかかる可能性があります。
美容機器広告での使用が認められる表現
・肌のキメを整える
・肌にハリを与える
・肌をひきしめる
・肌を滑らかに保つ
・(汚れを落とすことにより)皮膚を清浄にする
これらのように化粧品で認められている56の効能と同程度の範囲であり、尚且つ事実に基づいている事であれば認められています。
美容機器、雑貨の広告での言い換え表現(参考)
美容機器、雑貨で「細胞」「肌細胞」について表現する際、法律に抵触しない言い換え表現を以下にまとめます。
「細胞」「肌細胞」に関する表現を言い換えたい時の具体例
NG:特殊な電磁波が細胞を強化します
OK:特殊な電磁波でハリのあるお肌へ
NG:細胞レベルでのドレナージュ効果
OK:表情筋、経絡を心地良く刺激
まとめ
このように見ていくと、よく目にする美容系の広告において、薬機法、景表法、その他のガイドラインに引っかかってしまう表現は意外に多いものです。
商品広告作成の際には、安全に消費者に適切な情報を伝えられるよう、しっかりと法律を理解し、定められた効果効能の範囲を超えないように適切な表現を使っていくことが大切です。
消費者の会社への信頼を損ねない為にも、今後の広告作成に是非活用してみてください。
※違反事例、言い換え表現についてはあくまで参考として捉えてください。表現の違反等の判断については各都道府県の薬務課によって見解が異なりますので、ご理解頂きますようお願いいたします。