髪の毛をケアするヘアケア商品や、疲労回復を目的としたサプリメント、肌をケアする美容機器などは市場に数多く出回っています。
しかし、化粧品や健康食品、美容機器において、肌や髪のダメージを回復、修復するといった広告表現は薬機法において認められていません。 これらの商品において医薬品的な効能効果を広告表現に使用することは、優良誤認表示として景表法違反となる恐れもあります。
本記事では、「回復」「修復」がこれらの広告表現に使用できない理由と、言い換え表現の具体例について解説していきます。
なお、ヘアケア商品は薬機法上において化粧品や薬用化粧品を含む医薬部外品が存在していますが、本記事では化粧品に分類される商品の広告表現について解説しています。
薬機法・景表法の広告規制
薬機法とは
薬機法(医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律)とはその名の通り、医薬品、医薬部外品、化粧品、医療機器、再生医療等製品について品質や有効性、安全性を確認することを目的とした法律です。薬機法の広告規制は、薬機法10章において次の3か条から構成されています。
- 誇大広告の禁止(66条)
- 特定疾病の医薬品及び再生医療等製品の広告の制限(67条)
- 承認前の医薬品、医療機器及び再生医療等製品の広告の禁止(68条)
薬機法の広告規制は、その商品の製造・販売業者だけでなく、新聞やテレビ、ウェブサイトなどの広告制作に関わる人も対象となっています。
第六十六条 何人も、医薬品、医薬部外品、化粧品、医療機器又は再生医療等製品の名称、製造方法、効能、効果又は性能に関して、明示的であると暗示的であるとを問わず、虚偽又は誇大な記事を広告し、記述し、又は流布してはならない。
出典:医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律
景表法とは
景表法(景品表示法、不当景品類及び不当表示防止法)とは、一般消費者がより良いサービスを自主的、合理的に選べる環境を守るために作られた法律です。商品やサービスにおいて、消費者に誤解を与える恐れのある表示や誇大広告等を規制しています。
また、インターネットのウェブサイトやブログ、SNS(TwitterやInstagramなど)を使った広告も規制の対象となります。アフィリエイトとして商品やサービスを紹介するときに、より良く見せようとするあまり、事実に反する表現や根拠のない情報を使用することが無いよう、注意が必要です。
不適切な効能効果の標榜は優良誤認表示となる恐れも
商品やサービスについて次のような表示がされているものは、景表法において優良誤認表示とみなされます。
- 実際のものより著しく優良であると示す表示
- 事実とは異なり、競争事業者のものよりも著しく優良であると示す表示
「著しく優良」については、一般的に許容される誇張の限度を超えて商品やサービスの選択に影響を与えるかが判断基準となっています。 また、健康食品や美容機器において、合理的な根拠のない効能効果の表示が優良誤認表示と判断された事例が数多く報告されています。
ダイエット目的の健康食品が優良誤認表示となった事例
あたかも、食事制限をすることなく痩せられ かのように表示していたが、実際には、当該表示の裏付けとなる合理的な根拠を示す資料はなかった。
出典:事例でわかる景品表示法
したがって、化粧品や健康食品、美容機器において「回復」「修復」といった医薬品的な効能効果を広告表現に使用すると優良誤認表示とみなされる恐れがあるのです。
化粧品で標榜できる効能効果は限定されている
化粧品広告で標榜できる効能効果は、化粧品等の適正広告ガイドラインによって定められた56項目に限定されています。肌や髪のダメージを回復、修復するといった広告表現は、ガイドラインによって認められた範囲を超えているため、化粧品広告として不適切となります。
髪の「補修」はOK、「修復」はNG!
ヘアケア商品の広告において「ダメージを補修」という表現がよく見られます。こうしたヘアケア商品などの化粧品広告には「補修」の使用は認められますが、「修復」は認められていません。 髪の「補修」は毛髪の損傷を物理的なケアを指していますが、髪の「修復」は治療回復的な表現とされているため、扱いが異なるためです。
「補修」と「修復」は似ているように見えますが、「修復」を化粧品広告に使用すると薬機法やガイドラインに違反してしまうので注意しましょう。
健康食品で医薬品的な効能効果の標榜はNG
また、健康食品等の食品の広告についても薬機法に注意しなければなりません。 薬機法は、食品を直接の規制対象とはしていません。しかし、食品の広告において医薬品的な効能効果を標榜すると、その食品が医薬品とみなされることにより、「承認前の医薬品の広告の禁止」に違反することになります。医薬品的な効能効果とは、薬機法より、病気の診断や治療、予防を目的としたり、身体の構造や機能に影響を及ぼすことを目的とする表現と定められています。
肌や髪のダメージについて「回復」「修復」するといった表現は医薬品的な効能効果にあたるため、健康食品の広告でこれらの表現は不適切と考えられています。
美容機器広告に認められる効能効果範囲は化粧品と同じ
美容機器において、医療機器に相当するような効能効果を標榜することは薬機法違反となる恐れがあるため、認められていません。つまり、肌や髪のダメージを回復、修復するというように、身体に直接影響を与えるような表現はNGとなります。 美容機器において広告表現が認められる効能効果は、化粧品で標榜できる効能効果の範囲と同じと考えておきましょう。
また、美容機器や健康機器が医療機器とみなされた場合、それらの販売には医療機器販売業の許可や届け出が必要となります。これらの許可や届け出が行われていないと、医療機器を無許可販売として薬機法24条に違反するため注意しましょう。
化粧品での違反事例
回復、修復に関する化粧品広告での使用がNGとなる内容には次のようなものがあります。
- 医薬品的な効果効能があるような表現(再生、回復、修復、改善、治る)
- 身体の変化についての表現(肌がよみがえる、肌荒れを治す)
- 特定部位を表す表現(肌、髪、頭皮、血液)
- 用法用量の指定(1日1回必ずご使用ください、就寝前に)
- その製品を使うだけで良いといった表現(食事制限せずに、塗るだけで)
- 不安を煽る表現(まだ○○使ってるの、絶対に後悔します、周りから笑われてますよ)
- 最大級表現(最大、最小、最適、高級、ナンバーワン)
- 安全性の保証(安心安全、100%、万能、即効、一瞬で、○○分で)
- 有名人や専門家が推薦しているとした表現(厚生労働省、○○で採用された)
- 他社を誹謗中傷するような内容(従来の、これまでにない)
化粧品広告での使用が認められる表現
化粧品広告に使用がOKとなる効能効果は、原則として「化粧品等の適正広告ガイドライン」で定められた56項目に限られています。疲労、ダメージに関係している効能効果としては、次のようなものがあります。
- 頭皮、毛髪をすこやかに保つ
- 枝毛、切れ毛を防ぐ
- (洗浄により)ニキビ、あせもを防ぐ
- 肌荒れを防ぐ
また、使用感の表現(使いやすい、のびが良い)はOKとなります。
化粧品広告での言い換え表現(参考)
化粧品広告で疲労、ダメージについて表現する際に認められている言い換え表現をまとめました。これらの表現例を化粧品の広告を作成する際に参考にしてみてください。
「回復」「修復」を言い換えたい時の具体例
NG:赤ちゃんのようなもちもちの肌に生まれ変わります OK:もちもちの泡が肌にツヤとうるおいを与えます
NG:傷んだ髪が回復 OK:髪を補修して質感を整える
NG:傷んだ髪を修復 OK:傷んだ髪も
NG:ダメージヘアを再生 OK:ダメージケア(潤い補給)
健康食品での違反事例
サプリメントなどの健康食品広告での使用がNGとなる内容には次のようなものがあります。
- 医薬品的な効果効能があるような表現(回復、修復、解消、分解、活性化)
- 身体の変化についての表現(疲労回復、視力回復、デトックス、免疫力アップ)
- 特定部位を表す表現(肌、髪、ウエスト、血液)
- 症状や病名の記載(ガン、アトピー、更年期障害、肌荒れ)
- 用法用量の指定(1日1回必ずお飲みください、就寝前に)
- 不安を煽る表現(周りから笑われますよ、放っておくと大変なことに)
- 安全性の保証(安心安全、副作用の心配なく、満足度、無添加)
- その製品を使うだけで良いといった表現(飲むだけで、何もしなくても、我慢せずに)
- 最大級表現(最小、最大、抜群、無類、オンリーワン、ナンバーワン)
- 有名人や専門家が推薦しているとした表現(○○も驚いた、○○年続く、許可済み)
- 他社を誹謗中傷するような内容(大手企業より優れた、類を見ない)
健康食品広告での使用が認められる表現
健康食品の広告での使用がOKとなっている表現には次のようなものがあります。
- サポート表現(健康維持のために、美容のために、飲みやすい味)
- 使用感の表現(さっと飲める、サラサラ、香りがいい)
使用には注意が必要となる表現
身体の部位を表すワードに合わせての使用はNGです。
- 毎日スッキリ
- キレイな毎日を
- 生活習慣が気になる方に
健康食品広告での言い換え表現例(参考)
健康食品広告で回復、修復について表現する際に認められている言い換え表現をまとめました。これらの表現例を健康食品の広告を作成する際に参考にしてみてください。
「疲労」「ダメージ」を言い換えたい時の具体例
NG:疲労回復 OK:毎日元気に過ごすために
NG:効きます OK:サポートしてくれます
NG:効果がありました OK:実感が得られました
美容機器、雑貨での違反事例
美顔器などの美容機器や雑貨の広告での使用が認められない表現方法やワードには次のようなものがあります。
- 医薬品的な効果効能があるような表現(回復、修復、再生、効果)
- 特定部位を表す表現(肌、髪、ウエスト、贅肉、脚)
- 身体の変化についての表現(免疫力アップ、デトックス、発汗作用)
- 症状や病名の記載(ガン、更年期障害、アトピー、肌荒れ)
- 用法用量の指定(毎日5分だけ、就寝前に)
- その製品を使うだけで良いといった表現(付けるだけで、我慢せずに、何もしなくても)
- 不安を煽る表現(異性に嫌われる、病気かもしれません、このままでいいの?)
- 最大級表現(最小、最大、世界一、ベスト、一級)
- 安全性の保証(安心安全、やさしい、ストレスなく、心配なく)
- 有名人や専門家が推薦しているとした表現(○○お墨付き、検査済み、厚生労働省)
- 他社を誹謗中傷するような内容(比べ物にならない、大手企業より優れた)
美容機器・雑貨広告での使用が認められる表現
美容機器、雑貨の広告での使用がOKとなっている表現には次のようなものがあります。
- サポート表現(健康維持のために、美容のために、運動をサポート)
- 使用感の表現(洗いやすい、ふわふわ、なめらか、スムーズ)
使用には注意が必要となる表現
身体の部位を表すワードに合わせての使用はNGです。
- 生活習慣が気になる方に
- 毎日のスッキリに
- キレイな毎日を
美容機器、雑貨の広告での言い換え表現(参考)
美容機器広告で回復、修復について表現する際に認められている言い換え表現をまとめました。これらの表現例を美容機器や雑貨の広告を作成する際に参考にしてみてください。
「回復」「修復」を言い換えたい時の具体例
NG:肌のダメージを回復させる OK:肌荒れを防ぐ
NG:髪のダメージを修復する OK:髪を補修する
NG:どんな効果が出るのか楽しみ OK:どんな結果になるのか楽しみ
まとめ
肌や髪の毛のケアは、男女共に関心のある事柄であると考えられています。 しかし、化粧品や健康食品、美容機器において肌や髪のダメージを回復、修復するといった広告表現は医薬品的な効能効果を標榜しているとされ薬機法違反となります。 また、商品について事実に反する表示を行っている場合は優良誤認表示として景表法違反となる恐れあるため注意が必要です。
薬機法については、2021年より誇大広告に対する課徴金制度も導入されているため、各法律やガイドラインを確認し、専門家に相談するなどして不適切な広告表現を行わないように心がけましょう。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
※違反事例、言い換え表現についてはあくまで参考として捉えてください。表現の違反等の判断については各都道府県の薬務課によって見解が異なりますので、ご理解頂きますようお願いいたします。