美容クリニックで行われる施術の一つとして「イオン導入」が挙げられます。イオン導入はエステサロンで行われる場合もありますが、美容クリニックと同じ効能効果表現は薬機法違反に該当します。
また、美容室でも「髪や頭皮へのイオン導入」といった広告表現が使われることがあります。こちらも、美容機器を使った行為であるため医療行為と同じ効能効果表現は認められません。さらに、過剰な広告表示は景表法違反にもあたるため注意しましょう。
本記事では、「イオン導入」に関わる広告表現について、美容クリニックとエステサロン、美容室での扱い方の違いについてご紹介します。
イオン導入って何?
「イオン導入」とは、ビタミンCやプラセンタ、トラネキサム酸といった皮膚からは吸収しづらい成分を微弱電流を流してイオン化し、皮膚の深部まで浸透させる施術です。
ただ化粧水を塗るスキンケアと比べると、有効成分を皮膚に直接導入するイオン導入では、肌への浸透が飛躍的に向上します。イオン導入によって、肌のツヤが良くなる・シミやシワを改善するといった効果が期待されています。
イオン導入施術の流れ
ここからは、美容クリニックでのイオン導入施術の流れをご紹介します。
- クレンジング まずは、肌についている皮脂や汚れ、メイクを落とすためにクレンジング洗顔を行います。
- 問診 問診を行い、施術の流れや肌の悩みにあった薬剤を選択します。
- 薬剤シートを覆う パックのようなシートにビタミンCやプラセンタ、トラネキサム酸などの有効成分をたっぷり含ませ、顔を覆います。
- 微弱電流でイオン化 微弱電流の流れるローラーを顔全体に転がします。シートパックで貼り付けた有効成分をイオン化し、皮膚の深部まで浸透させます。
- スキンケア、UVケア 施術が終わったら、スキンケアやUVケアをして完了です。
美容クリニックではOK
イオン導入は、美容クリニックでは広告表示が認められています。
美容クリニックでのイオン導入は、れっきとした医療行為に該当します。エステサロンや家庭で使う美容機器よりも高出力の機器を使用するため、医師の診察を必ず行い、肌の状態を合った薬剤を選択します。
これに対してエステサロンや美容室で「イオン導入」といったワードを使う場合は、あくまでマッサージやリラクゼーションを目的とした行為です。そのため、エステサロンや美容室には医師や看護師はおらず、効果も即効性はありません。
美容室で「お客様に触れる業務」を行えるのは美容師のみ
美容室で「髪や頭皮へのイオン導入」といったサービスを行う場合は、美容師免許のない人が行うことはできません。
美容師法では、ヘアカットやシャンプーを含めた「お客様に触れる業務」を行う人は美容師免許を持つ人のみに限られています。
美容師は「美容を業とする者」をいい、美容師法に基づき厚生労働大臣の免許を得なければならない。
美容師の免許を持たないものは美容を業として行うことはできない。
美容とは「パーマネントウェーブ、結髪、化粧等の方法により、容姿を美しくすること」とされている。美容師がコールドパーマネントウェーブ等の行為に伴う美容行為の一環としてカッティングを行うことは美容の範囲に含まれる。
また、女性に対するカッティングはコールドパーマネントウェーブ等の行為との関連を問わず、美容行為の範囲に含まれる。染毛も理容・美容行為に含まれる。業とは反復継続の意思をもって行うことで、有料・無料は問わない。また、美容師が美容を行う場合には器具やタオル等を清潔に保たねばならない。
出典:美容師法概要
エステサロン、美容室では広告表現に要注意
エステサロンで使われる器具は、法律上「美容機器」に該当します。美容機器の効果をエステサロンの広告に記載するときには、化粧品と同じ範囲の効能効果表現までしか認められていません。
そのため、「イオン導入」に使われる「導入」といったワードは、「皮膚への過剰な浸透表現」として不適切とされる場合があります。
化粧品で認められている56の効能効果のうち、肌や皮膚に関わるワードは次のようなものが挙げられます。
- (汚れを落とすことにより)皮膚を清浄にする
- 肌を整える
- 肌のキメを整える
- 皮膚を健やかに保つ
- 肌荒れを防ぐ
- 肌をひきしめる
- 皮膚にうるおいを与える
- 皮膚の水分、油分を補い保つ
- 皮膚の柔軟性を保つ
- 皮膚を保護する
- 皮膚の乾燥を防ぐ
- 肌をやわらげる
- 肌にハリを与える
- 肌にツヤを与える
- 肌を滑らかにする
ビフォーアフター画像の掲載は薬機法違反
エステサロンや美容室において、イオン導入前と導入後の画像を広告に掲載することは「安全性の保証表現」として不適切とされています。
図面、写真等について 使用前、後に関わらず図面、写真等による表現については、承認等外の効能効果等を想起させるもの、効果発現までの時間及び効果持続時間の保証となるもの又は安全性の保証表現となるものは認められない。
エステサロン・美容室で医療機器と同じような広告表現は薬機法違反
エステサロンで使用するローラーなどの器具は美容機器にあたります。したがって美容クリニックのイオン導入と同じ効能効果があるような広告表現は、「未承認の医療機器の広告」として薬機法違反となります。
(承認前の医薬品、医療機器及び再生医療等製品の広告の禁止) 第六十八条 何人も、医薬品若しくは医療機器又は再生医療等製品であつて、まだ承認又は認証を受けていないものについて、その名称、製造方法、効能、効果又は性能に関する広告をしてはならない。
出典:薬機法第68条
また、あたかも美容クリニックと同じイオン導入施術を行うような広告表現は、虚偽・誇大広告にも該当するため注意が必要です。ちなみに、美容皮膚科医が効果を保証するような広告表現についても禁止されています。
(誇大広告等) 第六十六条 何人も、医薬品、医薬部外品、化粧品、医療機器又は再生医療等製品の名称、製造方法、効能、効果又は性能に関して、明示的であると暗示的であるとを問わず、虚偽又は誇大な記事を広告し、記述し、又は流布してはならない。 2 医薬品、医薬部外品、化粧品、医療機器又は再生医療等製品の効能、効果又は性能について、医師その他の者がこれを保証したものと誤解されるおそれがある記事を広告し、記述し、又は流布することは、前項に該当するものとする。
出典:薬機法第66条
景表法違反となる可能性も
エステサロンや美容室の広告制作の際には、薬機法だけでなく景表法(景品表示法)についても確認しておきましょう。
景表法において、商品やサービスが事実よりも著しく優良であるような広告は「優良誤認表示」として禁止されています。「イオン導入」についての広告において優良誤認表示が疑われている場合は、広告の内容についての合理的な根拠が求められるため注意しましょう。
(不当な表示の禁止) 第五条 事業者は、自己の供給する商品又は役務の取引について、次の各号のいずれかに該当する表示をしてはならない。 一 商品又は役務の品質、規格その他の内容について、一般消費者に対し、実際のものよりも著しく優良であると示し、又は事実に相違して当該事業者と同種若しくは類似の商品若しくは役務を供給している他の事業者に係るものよりも著しく優良であると示す表示であつて、不当に顧客を誘引し、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれがあると認められるもの
出典:景表法第5条
まとめ
美容クリニックでのイオン導入施術は医療機器を使うのに対し、エステサロンや美容室で使う器具は「美容機器」にあたります。美容機器の効果効能表現は、化粧品で認められている範囲までに留めることが大切です。
エステサロンや美容室で使う美容機器や化粧水は、薬機法による広告規制の対象です。また、過剰にイオン導入の効果をアピールすることは「優良誤認表示」として景表法違反にも該当するため十分注意しましょう。