消費者は日々、欲しい商品やサービスをさまざまな選択肢から選び、購入したりサービスを受けたりしています。その選択をするための材料には、品質や値段、ブランドなどがあります。
商品の価格表示は、消費者にとって商品やサービスを選択する上で最も重要な情報の一つです。価格表示があることにより、消費者は商品の比較を容易に行うことができます。 一方で、商品やサービスを提供する事業者側は、市場の状況や他社との競争を考慮し価格を決定し表示します。事業者側は、価格表示により消費者側に販売価格についての情報を提供することができます。 しかし、実際とは異なる価格の表示が行われるなど、価格表示が正しく、わかりやすく行われない場合には、消費者が商品を選択するときに誤った判断をしてしまうことがあります。また事業者間の競争も適正に行われなくなります。
このような観点から不当景品類及び不当表示防止法(景品表示法)は、事業者側が示す販売価格が、消費者に対して消費者が非常に都合のいい、又は競争相手の事業者の販売価格よりも著しく優位であると誤認させるような表示を不当表示として規制しています。 事業者側の消費者に対する価格表示に関して、景品表示法違反行為を未然に防止することと、適正な価格表示を推進するために、「不当な価格表示についての景品表示上の考え方」が公正取引委員会、消費者庁にて策定されています。
また、化粧品や医薬部外品といった商品の表示に関しては、医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(医薬品医療機器等法、薬機法:旧薬事法)でも規制されています。 本記事では、価格表示においてよく問題として取り上げられる、二重価格表示について、また、化粧品や医薬部外品の表示について取り上げます。
二重価格表示とは
二重価格表示とは、比較対象価格を併記して表示するものであり、それ自体は問題となりません。
事業者が自身の商品やサービスに対して行う二重価格表示は、適正に行われると、消費者の適正な商品選択と事業者間の価格競争を促進するメリットがあります。 しかし、適正な表示が行われない場合は、消費者に対し販売価格について誤認を与えることがあり、不当表示に該当する恐れがあります。
二重価格表示にはどのようなものがあるのか
二重価格表示には次に挙げるような形式があります。
①過去の販売価格を比較対照価格として併記する場合 ②将来の販売価格を比較対照価格として併記する場合 ③タイムサービスを行う場合 ④希望小売価格を比較対照価格として併記する場合 ⑤競争業者の販売価格を比較対照価格として併記する場合 ⑥他の顧客向けの販売価格を比較対照価格として併記する場合
①の例 在庫処分などのセール商品 セール開始前の価格(過去の販売価格)で、ある程度の期間販売されていた実績が必要となります。過去の販売価格は、セール開始時点からさかのぼった8週間について検討され、半分を超える期間で販売されていると、比較対照価格として使用できます。ただし、セール開始前の価格で販売されていた期間が2週間未満の場合、またセール開始後2週間以上経過している場合、比較対照価格として使用できません。
②の例 新発売!今だけ〇〇%引き 販売開始における需要喚起を目的に、将来の販売価格を比較対照価格として使用する場合があります。将来の販売価格は充分な根拠を持って設定される必要があり、実際には使用されない価格やごく短期間のみの販売価格である場合、不当表示に該当する可能性があります。
③の例 刺身のタイムサービス 生鮮食品や惣菜などの売れ残りを回避したり、ある商品について一定の時間のみ販売価格の値下げを行ったりする場合に二重価格表示になることがあります。
④の例 希望小売価格〇〇円のところ〜〜円 販売業者に製品を供給する製造業者などが自身の商品について、希望小売価格を設定している場合に、この価格を比較対照価格として併記することができます。また、希望小売価格の参考情報として、パンフレットなどにより製造業者などが販売業者にのみ開示する価格を比較対照価格として使用することもできます。 もちろん希望小売価格よりも高い価格を希望小売価格として併記することは不当表示にあたります。
⑤の例 A店で〇〇円のところ、当店では〜〜円 販売価格の安さを強調させるために、市場や他店の販売価格を比較対照価格とすることがあります。この場合、消費者が対照価格を見たときに、その価格は近くの店の最近の価格であると認識し得ます。このため、特定の競争業者の販売価格と比較し併記する場合は、最近の販売価格を正確に調査する必要があります。
⑥の例 非会員向けの価格を対照とした会員向けの価格 同一商品でも、顧客の条件によって販売価格に差がつけられていることがあり、二重価格表示となります。
次のような場合は、不当表示に該当する可能性があります。
- 同一でない商品の価格と併記する場合
- 比較対照価格に用いる価格が実際と異なっていたり、曖昧であったりする場合
いずれの場合でも、比較対照価格となる価格が直近の実際のものであり、消費者が現販売価格を極端に安いと誤認識してしまうような価格表示は、二重価格表示を行う上で適さないと言えます。
化粧品や医薬部外品の表示は薬機法でも規制されている
化粧品や医薬部外品の表示に関しては、景品表示法の他にも気をつけるべき法律があります。それは「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律」(医薬品医療機器等法、薬機法:旧薬事法)です。 本法律では第六十六条に、医薬品をはじめ化粧品、医薬部外品の効能表示や広告表示に関し規制を定めています。
第六十六条 何人も、医薬品、医薬部外品、化粧品、医療機器又は再生医療等製品の名称、製造方法、効能、効果又は性能に関して、明示的であると暗示的であるとを問わず、虚偽又は誇大な記事を広告し、記述し、又は流布してはならない。 2 医薬品、医薬部外品、化粧品、医療機器又は再生医療等製品の効能、効果又は性能について、医師その他の者がこれを保証したものと誤解されるおそれがある記事を広告し、記述し、又は流布することは、前項に該当するものとする。 3 何人も、医薬品、医薬部外品、化粧品、医療機器又は再生医療等製品に関して堕胎を暗示し、又はわいせつにわたる文書又は図画を用いてはならない。
出典:医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律
薬機法では上記のように、化粧品や医薬部外品の誇大広告に関しての規制を設けています。 薬機法において、化粧品及び医薬部外品は次のように定義されています。
この法律で「医薬部外品」とは、次に掲げる物であつて人体に対する作用が緩和なものをいう。 一 次のイからハまでに掲げる目的のために使用される物(これらの使用目的のほかに、併せて前項第二号又は第三号に規定する目的のために使用される物を除く。)であつて機械器具等 でないもの イ 吐きけその他の不快感又は口臭若しくは体臭の防止 ロ あせも、ただれ等の防止 ハ 脱毛の防止、育毛又は除毛
出典:医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(一部抜粋)
この法律で「化粧品」とは、人の身体を清潔にし、美化し、魅力を増し、容貌ぼうを変え、又は皮膚若しくは毛髪を健やかに保つために、身体に塗擦、散布その他これらに類似する方法で使用されることが目的とされている物で、人体に対する作用が緩和なものをいう。
出典:医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律
上記の内容からわかるように、化粧品と医薬部外品は、人体に対する作用が緩和であることが決められています。化粧品、医薬部外品の広告表示には、医薬品のように人体の機能や構造に変化を与えるような効能の表示はできません。
例えば化粧品では、シミやそばかす、シワの除去などの効果は、化粧品として認められる効能を逸脱しています。肌を整える、肌のキメを整える、肌を引き締めるなどの表現は認められています。
また医薬部外品の例としては、髪が生える旨の表示は、医薬部外品として育毛剤で認められている効能を逸脱しています。育毛剤の効能の表示としては、脱毛の予防、育毛、薄毛、かゆみ、ふけなどが認められています。
まとめ
- 二重価格表示は、それ自体は問題でなく適正に行われることで、消費者の商品選択、事業者間の競争にいい影響を与える。
- 消費者に、極端に安く購入できるなどの誤認を与えるような価格表示は不当表示となる。
- 化粧品や医薬部外品の表示は、景品表示法とは別に薬機法にも注意する必要がある。
最後までお読み頂き、ありがとうございました。