少子高齢化の進行と、人口減少社会の到来で、多くの業種が人手不足という深刻な問題を抱えています。化粧品業界もその一つで、IT化への取り組みが今後の課題となり、方向転換が余儀なくされています。これからの少子高齢化社会に向けて、具体的にどのようなIT化が進んでいるのでしょう。取り組み例とともにご紹介していきます。
1.進む少子高齢化と人手不足
2015年の人口は1億2,520万人、生産年齢人口は7,592万人である。国立社会保障・人口問題研究所の将来推計人口(出生中位・死亡中位推計)によると、総人口は2048年に1億人を割り、2060年には8,674万人にまで減少すると推計されている
引用元:総務省HP
総務省のデータによると、2060年までに生産年齢人口はおよそ3000万人減少するのに対し、高齢者の人口は10%増加する推移を示しています。人手不足はますます深刻化するとみられており、化粧品業界のみならず、産業界は省人化や自動化などのIT化に積極的に取り組んでいます。
2.化粧品業界IT化の課題
人間にしかできない仕事がある
製造した商品の表面の傷を目視で検査する作業は、現段階ではロボットにはできない作業です。化粧品の製造には、人の感性が求められることが多く、AI画像処理でも全てを代替することは難しいのが現状で、今なお手作業による生産が主流となっています。
全ての作業をロボットに移行するのではなく、ロボットが製造した商品を人間が検品するという流れを作り、お互いの強みを活かした分業にしています。そうすることで、省人化しても高い品質を維持することができています。
繊細な製品を取り扱うことが困難
化粧品にはシートマスクやクリームなどの、薄い・柔らかい製品が多数存在します。細かく繊細な製品を取り扱うには、手仕事が必要不可欠でした。しかし、手仕事では限界があり、繊細な製品を全て手作業で製造するには多大な労力とコストがかかります。繊細な手仕事には技術が求められ、クオリティを保つためには一定の集中力も必要となります。
そのため、ロボットのアーム先端に柔らかい素材を使用し、手作業と同様の動きと力で動かせるよう、開発が進んでいます。ロボットの構造や素材を見直すことで手作業を再現しつつ、一定のクオリティを保った製造を目指しているのです。
構成が複雑な商品
化粧品には、色や質感の違うものが一つのパレットに入っている「パレット化粧品」という製品があります。パレットに正確な分量の材料を入れていく作業は、ロボットにはまだまだ難しい状態です。この課題の解決に向け、「印字」、「組み立て」など、一つのロボットは一つの作業に集中できる仕組みを作り、検品は人の目で行う環境を構築している企業があります。
単純な作業をロボットに対応してもらい、作業の効率化を図っています。
3.化粧品業界のIT化の取り組み例
チューブ製品のカットの自動化
ライフロボティクスの協働ロボット「CORO®」をコスメナチュラルズのチューブ製品のRカット工程へ導入。
化粧品を製造・販売する株式会社コスメナチュラルズは、チューブ製品のRカット工程に2台の「CORO」を双腕として導入し、この工程を担当する作業員1~2名を0名とした取り組みの詳細を公表しました。
引用元:ライフロボティクスHP
クリームなどの内容物が充填された後、熱や超音波などでチューブの口を塞ぎます。塞いだシールの部分に角が出来るので、その部分を丸くカットします。その工程を、Rカット工程といいます。チューブ製品の角で、人やレジ袋に傷をつけないようにするための工夫です。大手を除く製造会社では、作業員が機械を使用して、このRカット工程を行っています。
Rカット工程の自動化を困難としている主な理由としては下記が挙げられます。
化粧品業界では、チューブ径・デザインの多様化は激しく、商品サイクルも短くなっている
充填機内で1種類のチューブ径のみに対応できるRカット装置は高額であり、様々なチューブ径に対応できるRカット装置は開発されていない
コンベア式製造ラインの横にある作業場所は狭く、他の作業員も近くにいるため、安全柵で囲うタイプの産業用ロボットでは広い場所が必要であり導入が困難になっている
引用元:ライフロボティクスHP
この3つの条件をクリアし、ロボットによる作業が実現しました。Rカット工程に対応したロボット(CORO)は、化粧品業界だけでなく、チューブ製品を扱う幅広い業界で使用することができます。
技術を活かしたネイル筆製造のロボット化
熊野筆は毛先がカットされていないので、型に毛先を入れて筆先を形作ります。筆作りは工程が複雑なので、製作はほとんどが手作業で行われています。一方、職人の高齢化、安価な中国製品の流入、毛筆の需要の低迷などによって、工程の自動化やコストダウンが必須の状況です。 その問題を解決するため、製法が比較的簡単な「ネイル筆」の製造工程を自動化することで、生産性を飛躍的に高めることができました。
- コマ入れ
- 根本切断
- 仮付け
- 接着
- ターンテーブル搭載
- バリ取り(完了)
このように、工程を細分化することで、各工程に合わせて6台のロボットを導入し、作業の自動化を実現しました。その結果、生産能力が最大で6.7倍となり、6名で行なっていた作業が2名で行えるようになり、生産性が飛躍的に高まりました。
製造と販売の見える化
内田洋行ITソリューションズでは、業種・業界別の課題解決に特化したソフトウエアの開発や販売を行なっています。そこで販売されているのが「化学・化粧品プレミア」です。化粧品製造業に向けて開発された、製版一体の販売・生産・品膣管理システムで、
見積から受注、出荷に加え、化粧品製造業様に必要な「生産計画」「所要量計算」「構成品在庫予測」「資材計画」「工程管理」「秤量器連携」「品質管理」「原価管理」の各システムを標準装備。
「最良の製品を、求められる時に、求められる量供給できる生産工場」を支援する販売・生産・品質管理システムです。
引用元:株式会社内田ITソリューションズHP
このソフトを使用すると具体的には下記のものとなります。
製品、資材在庫の有効在庫の可視化や、生産予定・製造実績の状況の把握が可能
品質検査の指示書出力から検査結果、検査報告書の作成・保管までの業務プロセスを管理出来ます。また、使用期限管理やトレーシング等、業界で求められる高レベルな品質管理をサポート
工程の進捗や手順記録、秤量・製造実績データの収集を可能な限り人手に頼らない手段で実行し、誤秤量・誤投入を防止
バーコードラベルと無線ハンディターミナルの組合せで情報入力が可能です。現場で発生する受払、投入実績、ロス、検査結果、作業実績等の各種情報は速やかにデータベースに記録・活用
引用元:株式会社内田ITソリューションズHP
製造と販売の情報の不透明な部分を、データとして管理することで、誰にでもわかる形で見える化するということです。このように可視化されることで、商品の在庫を適正化することができ、品質管理の属人化も防ぐため、結果的にコストも下げることが可能となります。
4.まとめ
ここで紹介したのは、ほんの1例ですが、化粧品業界のIT化はますます進むでしょう。これまで不可能と考えられていた作業の自動化は、生産効率を飛躍的に高めます。人手不足に対応していくため、今は人の手でしかできないことも、5年後10年後には当たり前のように機械化されているかもしれません。